宇宙航空用タンデム型太陽電池〜安定な衛星運用に向けて

 太陽電池の効率競争はシリコン多結晶に迫る性能をペロブスカイト材料が達成しその後も急速な効率向上がめざましい(注1)。一方、太陽光の広範囲な波長分布に対応し、有効にエネルギー変換を行うためには、古くから異なるバンドギャップの半導体セルを併用するタンデム型(多接合)太陽電池開発も行われてきたが、超高効率化が可能になる反面、製造コストや技術的課題が多かった。

 

(注1)現時点で世界最高エネルギー変換効率のタンデム型太陽電池はシャープがNEDOプロジェクトで開発した3層構造の44.4%

NRELを始め各国の研究機関でタンデム型太陽電池開発が進められているがここで紹介するのは米国空軍の研究所が開発した宇宙・航空用の高性能かつコンパクトな多接合太陽電池である。応用としては例えば長期間の運用が不可欠なGPSや通信衛星の電源などがある。これらの用途ではエネルギー密度を高めると同時にコンパクトであることが必須となる。

 

シリコンは耐放射線性が難点

宇宙用太陽電池として最も多いのは単結晶シリコン太陽電池で化合物系よりコストの点で優れているが、エネルギー変換効率は20-25%のものが一般的である。しかしシリコンの大敵は放射線で態放射線性が弱点となっている。宇宙放射線の影響で衛星の運用される軌道上の放射線量は地球上の値(年間2.4mSv)よりはるかに高い。またγ線以外に高エネルギー荷電粒子が生成する2次放射線の影響が大きい。そのためシリコン太陽電池の運用年数は大きく制限されてしまう(下図は開回路電圧(OCV)の照射効果)。

 

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Credit: energyprofessionalsymposium

 

一方、最近の衛星搭載太陽電池には多層構造のタンデム型太陽電池が使われることが多くなってきている。多くはゲルマニウム基板に成長させて製造される多接合型電池はシリコンより耐放射線性に優れているが、衛星の回路が複雑化して駆動電力も増大したため、より高性能のタンデム型太陽電池が必要となった。

 

キーテクノロジーとなる倒立変成多接合(IMM)

今回開発されたタンデム型太陽電池はIMM(Inverted Metamorphic Multi-junction)と呼ばれる新しい製造法によるもので、太陽電池開発で知られるNRELでも同じ方法で、高性能のタンデムセル構造太陽電池の開発を行っている(https://www.nrel.gov/pv/high-efficiency-crystalline-photovoltaics.html)。倒立変成多接合は通常 とは逆の順序で,トップセルから順 に成長し最後にボトムセルを成長する成長法で、下記のような複雑な多接合が製造できるようになった。

 

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Credit: NREL

 

NRELで開発されたIMM技術を用いたフレキシブル高性能タンデムセル(下イメージ)はMicroLink Devicesから市販されている。

 

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Credit: MicroLink Devices

日本独自のGPS衛星「みちびき」は4号機が2017年10月に打ち上げられ2018年度からサービスが開始される。出力5.3kW(後期型は6.3kW)で寿命10年の運用を支える。太陽電池はNEDO補助を受けた三菱電機製でGSユアサの宇宙用Liイオンバッテリーとともに、安定な運用の要となる。「みちびき」運用はGPS衛星を保管して数cmの位置計測を可能とする。交通ナビゲーション以外に地殻変動や地震予知で原子炉の安全な運転や災害対策に役立つと期待されている。

 

 

 

 

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