次世代GaNプロセッサによる耐熱・耐放射線エレクトロニクス
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- カテゴリ: 宇宙と放射線
- 作成日:2017年12月29日(金)10:41
- 投稿者: Hiroyuki
半導体の放射線効果は宇宙空間の極端環境の中で高熱と並んで半導体デバイスの大敵であり、加速器を利用してその影響が詳しく調べられてきた。日本ではJAEA高崎(QST)にある半導体体放射線研究グループが系統的に研究を行ってきた。
半導体の放射線効果はγ線の電離作用による電荷が界面準位をつくることで素子特性が劣化する(人体と同様に、)累積線量効果の他にも、電子線では欠陥が生成されやすくまた、一個の荷電粒子でもエネルギーが大きいと、生成される電荷で素子の特性が大きな影響を受ける(シングルイベント効果)が無視できない。
物理的には下図に示すように放射線照射で生成する正電荷(正孔)の捕獲、点欠陥の生成、欠陥クラスターが表面(界面)あるいはバルクの電気的特性を損傷することである。
この放射線効果は宇宙空間のみでなく地球上に降り注ぐ宇宙線シャワーで日常使用している電子機器にも影響を及ぼしている。気がつかないだけで突然引き起こされる電子機器のハードエラーも実は宇宙線の放射線効果かもしれない。
Credit: K. Hara (Tsukuba Univ.)
耐放射線用の半導体材料といえば、ワイドギャップ半導体でパワーエレクトロニクスで耐熱性には定評のあるSiCが研究対象であったが、最近、次世代パワーエレクトロニクス材料とされているGaN素子に耐熱・耐放射線の観点に加えて、高い移動度を有効に利用する高速プロセッサを使う宇宙用エレクトロニクスに関心が集まっている。
Credit: semicon.sanken-ele
GaNはLEDへの応用が先行したが、その電子移動度はシリコンの1,000倍高くエネルギーギャップが大きいことによる耐熱特性で、既存のシリコンプロセッサを上回る高速プロセッサを製造することが可能である。直接遷移バンド構造のIII-V族半導体は、高速性が売り物であったがHEMTトランジスタが唯一の応用であるが、GaNプロセッサは極端環境で高性能を発揮する次世代HEMTデバイスとしての実現性は(シリコンプロセッサの熱対策の限界の追い風を受けて)高い。
GaNは富士通が実用化したHEMT素子同様にRF回路パワーエレクトロニクス材料として耐熱特性・耐放射線特性が不可欠の宇宙用機器への応用研究を始まっている。高速性でGaNチップを使用すれば回路が小型化できる。これは遮蔽される空間容積が制限される宇宙機器では重要なメリットとなる。シリコン素子は300C以上で動作不良を起こし周波数帯域も狭いが、GaN半導体は高温で安定に動作しHEMT特性は100倍帯域が広い。また、耐放射線特性にも優れている。
Credit: energy.mit
GaN素子の課題はまずn型、p型MOSトランジスタを作成し特性を評価する必要がある。そのためにはデバイス製造に適した成長法と微細構造の開発が必要で、次にNOR型ゲート、NAND型ゲート構造の作成を経てデバイス構造作成プロセスの確立となる。このためNASAは”Hot Operating Temperature Technology(HOTTech)”プロジェクトの委託でアリゾナ大学が研究開発を進めている。
GaN素子は500C以上の高温で動作でき、耐放射線性能も優れているため次世代を担うパワーエレクトロニクス、宇宙用電子機器への応用が期待できる。
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