宇宙線のホットスポット解明に活躍する日本の技術

絶え間なく宇宙から降り注ぐ宇宙線は太古から地球環境や生命活動に大きな影響を及ぼしてきた。しかし地球の磁気圏の影響でその直接的な影響は軽減されている。放射線機器、核兵器、原子炉、核燃料廃棄場に加えて、原子力事故とその結果の環境汚染で背景にある自然放射能を忘れるほど、我々の周囲に放射線源はありふれた存在になっている。

 

パソコンのフリーズは宇宙線の影響かもしれない

しかし宇宙線はオーロラとして人々を魅了するだけでなく成層圏を飛行する航空機の電子機器を破壊したり、通信障害を起こすこともある危険な高エネルギー粒子であることを忘れてはいけない。大気中に高エネルギー粒子が入射すると陽子や電子、X線、γ線など様々な荷電粒子や放射線を発生するからである。

このような宇宙線による電子機器の障害は単一イベント障害(Single Event Upset, SEU)と呼ばれる。作業中にパソコンが突然フリーズしたりWordが機能停止するのも実はこのような外的なノイズによるかもしれないのだ。

宇宙線は1912年に発見されたが、実体は比較的運動エネルギーの低い陽子やヘリウム、酸素、窒素、炭素、鉄の原子核でそれらの起源は星の爆発や太陽風など銀河系内である。しかしはるかに高いエネルギーを持つ宇宙線は陽子が主で起源は銀河外にあることがわかっている。

一部にはブラックホールに物質が吸い込まれる際にエネルギーが陽子ビームとして放出されると考える人もいるが、星の爆発によるγ線バーストやる研究者や星団の衝突と関連づける説やビッグバン時の重粒子に起因するなど様々な仮説がある。

 

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Source: neutronm.bartol.udel.edu

 

バンダービルト大学の電子工学研究者によると電子機器の故障と区別がつかないので宇宙線によるSEUは気がつかない場合が多いが、チップの微小化が進み社会が電子回路に依存しすぎるとSEUの脅威が増すという。SEUの特定はしかし電子機器の一般的な障害で説明できない場合に限定するしか方法がない。

 

日本の技術が支えるTax4とは

ユタ州のデルタにある電波望遠鏡アレイプロジェクトに日本は460万ドル(5億2千万円)を投じて6倍の検出器アレイを持つアップグレードに参加している。このアレイ検出器をユタ大と東大の研究グループが共同で銀河系外起源の高エネルギー宇宙線に関する研究を行う(Phys.org June 15, 2015)。

高エネルギー宇宙線のホットスポットとは銀河系以外の星団なのかブラックホールなのかは不明である。南半球にはアルゼンチンに巨大なアレイ検出器(注1)があるので、それに匹敵する検出器アレイで北半球が観測できることになる。両者を連携することで高エネルギー宇宙線の発生場所を特定できると期待されている。

注1)オージェ効果で知られる原子核物理学者ピエール・オージェの名前に由来する天文台。空気シャワー観察でTeV領域の高エネルギー宇宙線の起源を研究している。世界最大の検出器アレイでこれまでの高エネルギー粒子モデルの予測を超える大量のミューオンを観測したことで知られる。Tax4の最大の競争相手であると同時に連携して地球に降り注ぐ宇宙線の南半球を分担して観測できる。ピエール・オージェ天文台の検出器は直径3.6m、深さ1.2mの水タンクにフォトマル3個を配備したユニット1,660個から構成される。さながら平面状にカミオカンデを分散したようなもので、ミューオン検出に使われる基本的な技術は同一である。

またこのフォトマル検出器とは別個に4箇所に設置された27個の蛍光検出器も有している。この検出器ではエアシャワーが窒素原子を励起した後基底状態に戻る際に発光を計測する。窒素原子の発光を集光してフォトマルで検出し窒素原子を励起後スペクトルからのエアシャワー形成過程を調べる。

Source: LiveScience

 

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Credit: Phys.aps.org

Tax4と呼ばれる電波望遠鏡アレイのアップグレード計画(下図)では赤い丸印のシンチレーション検出器アレイ(507基)が大幅に拡張され400基が追加される。この現在の検出器アレイ建設費(2500万ドル〜28億円)の2/3は日本が出資している。アップグレードに要する4億5000万万円もまた日本からの予算投入である。

日本はこの他にも低エネルギー宇宙線検出用のシンチレーション検出器60基を1億2500万円で導入する。シンチレーション検出器と蛍光検出器により宇宙線のエネルギーを特定することができる。 

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Credit: University of Utah

 

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Credit: RIKEN

古いTax4の検出器は格子状の507箇所に設置されたプラスチックシンチレーション検出器と3箇所に設置された38ユニットの蛍光検出器の2つのシステムがある。宇宙線と大気中のガス分子との衝突で形成されるエアシャワーの発光を蛍光検出器で計測する。γ線や荷電粒子はシンチレーション検出器で計測する。

蛍光検出器はエアシャャワーからの微弱なUV発光を反射鏡で集めてフォトマルで検出する(下図)。

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Source: LiveScience

 ユタ州の立地条件と測定環境の良さがこの計画のアドバンテージであるが、カミオカンデ、スーパーカミオカンデで培われてきた高性能大型シンチレーション検出器技術が採用され、土地と施設を米国が供出して日本の予算で検出器が整備される。背景には大型フォトマル技術に関しては圧倒的な日本の技術力があるが、計画の予算のほとんどを日本が支出していることも忘れてはならない。  

 

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