火星往復での放射線量〜RADによる宇宙空間の線量

火星旅行はかつてのSFの中の話だと思っている人は時代に取り残されていると言っても過言ではない。NASAと欧州宇宙局は共同で開発したオリオン宇宙船で1972年以来となる地球周回低高度軌道を離れて宇宙空間に乗り出す。まず月周回軌道を行い、その後2021年までに火星への有人飛行を試みる。

 

NASAの有人火星ミッション〜オリオン宇宙船

Orion with service module and propulsion stage

Credit: NASA

財政難で一度挫折した火星ミッションはNASAと欧州宇宙局の協力でオリオン宇宙船の打ち上げで復活した。オリオン宇宙船はアポロ司令船と似た円錐形の形状で、補給機モジュール先端に取り付けられる。補給機モジュールとその推進システムはエアバス社が制作し、すでに打米国に運び込まれた。

 

火星移住計画

それだけではない。スペースX社は独自に開発するレッド・ドラゴン宇宙船で火星に到達した後に100万人が住む都市建設を目指している。またオランダの火星への移住を行う組織、マーズ・ワンも2025年までに移住を開始する。人類は2020年代に火星への往復飛行と移住までもが現実になるかもしれない。下図に宇宙空間の陽子フラックスのエネルギースペクトルを示した。太陽起源と銀河起源でエネルギー領域に大きな差があることが重要になる。

 

figure2.6

Credit: NASA

 

地球から火星までの往復宇宙飛行で障害となる地球磁場に守られない宇宙空間での放射線被曝を評価する必要が必要となった。そのため本格的に宇宙空間の放射線量を定量化する研究が活発化している(https://phys.org/news/2013-05-exposure-journey-mars.html)。2011年11月26日火星科学研究所(注1)は火星にローバー(Cuorisity)を送り込むためのミッションで5億6千万kmを253日かけて飛行する宇宙船を打ち上げた。

(注1)NASAのジェット推進研究所が管理する(学術的な)火星飛行ミッションのための研究開発を目的としている。

 

最近の研究では宇宙線の影響をまともに受ける宇宙空間(注2)の火星までの積算線量は5-6日ごとにホールボデイカウンタ計測を受ける時の値に匹敵するとしている(Science 2013)。宇宙線のエネルギーは極めて高く透過力が大きいため、低高度地球周回軌道上のISSのような通常の宇宙船の放射線防御仕様では防ぐことができない。

注2)地球磁気圏と外側にある陽子帯、さらにその外側にある電子帯より外側の空間を指す。

 

rad instrument

Credit: NASA

 

宇宙空間の線量計RAD

太陽フレアは間欠的で予報もできるので一時的な放射線遮蔽能力の高い場所に逃げ込むなどで対処できるが宇宙線は絶え間なく降り注ぐので対策が困難である。示す火星までの宇宙空間の線量測定を行うRAD(Radiation Assessment Detector)では荷電粒子をシリコン検出器で検出し、その下のプラスチック検出器で荷電粒子と中性粒子を計測する(上図)。

また荷電粒子にわずかに含まれる高エネルギー重イオン粒子の生物への影響は他の粒子より大きいと考えられている。また太陽フレアで放出される数100MeVの陽子もヘリウムイオンやその他の重イオンと同様に重大な影響を与えるが銀河起源の宇宙線ほど高エネルギーではない。このため放射線遮蔽は太陽起源の荷電粒子の対策の方が効果がある。

下にRADで測定されたドース率で赤い矢印のピークは重イオン粒子のバーストによるものである。

PIA16020 Hassler 1 RAD Surface Observations Updated

Credit: NASA

 

RADによれば1日当たりの実測ドース量は1.8mSvとなり火星までの往復飛行の積算線量は0.66Svであった。宇宙飛行士の積算線量は1Svを越えないことが各国の宇宙機関で合意されている。太陽起源の荷電粒子(85%は陽子)が全線量に占める割合は5%にすぎない。これはRADの測定期間が太陽活動が活発でなかったことと宇宙線の遮蔽が有効に働いたためである。

積算線量1Svを越えると5%の癌発生リスクがあるとされるが、火星表面の放射線量もローバーのRADで計測されている。環境により宇宙飛行士の受ける線量は大きく変化するが、調査目的の短期滞在と往復で1Svを超えないように設計されるだろうが、長期滞在の放射線遮蔽はより過酷な要求となる。火星移住計画でどのような対策が講じられるか不明である。

 

これまでに火星移住に申し込んだ人は多いが環境対策で最も困難になるのは高エネルギー荷電粒子である。RADの計測データの蓄積だけではなく生物への影響を実験的に調べる必要がある。宇宙線の遮蔽の難しさを理解した上でそれでも火星機を希望する人がいるのだろうか。

 

 

 

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