遠心分離機−ウラン濃縮から生化学まで

 ウラン濃縮に関する記事でたびたび登場する遠心分離機(Centrifuge)についてかくことにする。遠心分離は高速で回転させると遠心力によりわずかな密度差でも成分を分離、精製できる。簡単な原理で扱い易いため広範囲に用いられる。

 

 汎用機は生化学や化学の実験室の必須機器であるし、揚げ物から油を搾り取る家庭用遠心分離機はアマゾンで手に入る。国際的には遠心分離機の性能と個数が濃縮能力の指標となることが広く知られイラン核問題のニュースでは話題になる。しかし日本は核アレルギーといわれるほど原子力に敏感だが、肝心のウラン濃縮がどのように行なわれるのかについて知る機会は少ない。ここではその原理と濃縮過程を簡単に解説することにする。

 

 一般にウラン濃縮技術には遠心分離の他に①質量に依存する拡散速度の違いを利用する「拡散法」、②電磁場で質量差による違いを用いる「電磁法」、③化学的に酸化還元時の反応差 を利用した「イオン交換法」、④光化学反応速度差を利用した「光化学的分離法」、最近では⑤レーザー光選択励起で分離する「レーザー法」があるが、コストや建設の容易さなどを考慮すると遠心分離が現実的である。

 

uranium-enrichment-diagram

 

 現在、ウラン濃縮工場で採用されているのはガス拡散法と遠心分離法であるが、前者は大電力を必要とするためにその採用は電力事情を反映している。電力が豊富な米国とフランスはガス拡散法、英国、オランダ、ドイツ、中国、ロシア、日本(六ヶ所村)では遠心分離法を採用している。

 

 原理は脱水モードの洗濯機と同じで高速で回転するローターに試料(懸濁液や混合ガス)をいれて、高速回転させたときの遠心力により回転軸と垂直方向(Gのかかる方向)に密度差に対応して密度勾配(成分勾配)を生じるので、一定時間後に所定の場所に集中した目的の成分を抽出することができる。この操作を繰り返せば低濃度から出発して純度を段階的に上げることができる。ローターの製作には高精度鋼管が大量に必要になるので、その大量発注はうラン濃縮工場とみなされ監視されている。

 遠心機の性能は回転数で代表される。発生する遠心力をGで表現すると高性能機は数1000G以上の超遠心機である。ウラン濃縮にはガス遠心分離装置が使われる。遠心分離機の内部では図に示すようにローターが超高速で回転しており、内部に注入されたガス(六フッ化ウランガス)は、数1000Gの遠心力でローターに押し付けられる。軽水型原子力発電所ではウラン235の濃度を天然ウランの0.7%(注)から3-5%に濃縮する必要がある。原子爆弾は70%以上の高濃度ウランが必要になる。ちなみに広島型爆弾(リトルボーイ)では80%のウランが75kg使われた。現代の兵器では純度90%ウランが標準とされるので、0.7%から90%に濃縮することになる。

(注)地球上のウランは99.274%がウラン238で、ウランの埋蔵量は547万トン(資源エネルギー庁)。ウランはイエローケーキと呼ばれる酸化物で取引され、これを原料にして六フッ化ウランが製造される。日本は六フッ化ウランを輸入している。

 

Gas centrifuge cascade

 

 ウランの同位体(235、238)のわずかな質量の差が密度差を生む。図のように重いウラン238の割合が高い六フッ化ウランが外側に移動し、外側の238の割合が高くなり、中心部で235の割合が高くなる。一定時間後に中心部の六フッ化ウランガスを抜き取ると、放射性ウランを多く含む濃縮ウランが得られる。原理的には簡単だが膨大なローターを直列に組み合わせるため精製工場は大規模な施設に数1000個の装置が立ち並ぶ。

 ウラン濃縮に使う遠心分離機は膨大な数が直列につながり、下流にいくにつれてウラン235の純度が高くなるがその配置(カスケード)では、写真のように一基ごとにIN、OUT、濃縮ガスOUTの3系統のパイプがみえる。これらの配管については下記の模式図を参照。

 

01 copy

 

 イランがウラン濃縮に使用している遠心分離機は初期のIR-1から最新型IR-8まであるが最新型のIR-8は性能がIR-1の20倍高いことから、今回の合意で米国は10年間使用禁止とした。高性能型(IR-8)では段数が減るので単純な段数で規模は推測できない。今後のIAEAによる詳細な調査が必要となる。イラン核開発のP5+1交渉の進展については別記事に詳しくかかれている。

 

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コメント  

 
# Michio 2015年05月03日 01:38
遠心分離機の進歩は日進月歩です 。ローターの新素材が次々現れ、 加工精度が上がり、磁石で浮かせ 摩擦を減らし、回転数を上げるな どの改良を通じ、同位体分離能力 SWU(Separative Work Unit)が等比級数的に改善す るので、核拡散にとってのの脅威 になるわけです。イランの遠心分 離機の詳細設計の公表はそれ自体 が核拡散の危険を高めるので、報 告書に出ることがないわけです。
 
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