電気化学とエネルギー科学〜鍵となる電解質の理解

20世紀に花開いた産業といえば電子技術だが、それを支えた基礎科学は固体物理であった。一方、21世紀に入ると素子の微細化で電子機器が小型化し個人が持ち歩く携帯端末が発展した。その電源にも携帯性が要求され、エネルギー密度の大きいLiイオンバッテリーが不可欠となっている。また排気ガス規制も深刻になり、化石燃料から電力への転換が加速した。風力や太陽光などの再生可能エネルギーの安定化を目的としてバッテリー技術の研究開発が活発化した。

 

21世紀はエネルギー科学の時代

エネルギー科学とは再生可能エネルギーの本格的な普及と携帯電子機器の使い勝手をよくするための幅広い発電・貯蔵・輸送に関する研究開発と言える。バッテリー技術や貯蔵した化学エネルギーで発電する燃料電池を支えるのは電気化学である。電気化学の歴史は古く18世紀のマイケル・ファラデーにさかのぼる。しかしファラデーは電磁場の基礎理論でも知られるように、物理と化学の両方に知見を持つ科学者であった。

電気化学の重要な因子を探っていくと結局、電解質溶液のイオン化ポテンシャル(電子親和力)など酸化・還元反応の方向性と効率を支配する電気物性に集約される。これは広く生物化学や脳神経科学などの極めて多岐にわたる元素科学の根底にあるもので、いわば元素の性質を数値化したような意味があるから、ある意味では当然のことである。

リバモア国立研究所の研究グループの研究グループは、電解質溶液の挙動をシミュレーションした結果から、エネルギー科学研究の中心が電解質科学に他ならないと考えている。

 

研究グループは水溶液中の種々の金属イオンの電子励起状態のシミュレーションで、分子動力計算と電子状態の計算と比較して溶媒と溶質の個別の電子励起状態やイオン化ポテンシャルの実測値を正確に予測できることを示した(Science Advances 3:e1603210(2017))。研究グループはこの理論的手法を先端的な分光データと比較することにより、溶液中の反応種を特定することも可能であるとしている。

下図の結果は研究グループの開発したDFTによるイオン化ポテンシャルの計算結果を示したものである。RSH(Range-separated hybrid)、sc-hybrid(Self-consistent hybrid)を用いたDFT結果が上下コラム。

 

e1603210.full

 

エネルギー科学と計算機シミュレーション 

開発された計算機手法は複雑な電解質の電子的な反応を予測することができるため、水分解による水素発生メカニズムの詳細を理解するために力を発揮する。また燃料電池の水素から電力発生する逆プロセスにも応用ができる。

エネルギー科学は経験的な時代から計算機シミュレーションによる最適化の時代に入ったと言える。研究効率化と経費節約でもバッテリー性能向上が約束されたと言えるかもしれない。再生可能エネルギーの本格普及の壁となっていた「ベース電源」としての不安定性を、合理的に解決しエネルギー貯蔵が送電網に組み込まれるようになると、都市近郊で1000MWクラスの発電を考えるスター方式のエネルギー供給が陳腐なものになるだろう。送電網に充電インフラが組み込まれて初めてEVは実用的になるし、太陽光で水分解する水素ステーションも増えればFCVも遜色ないようになる。EVが良いのか、FCVが良いのかという議論は視野が狭い。EVは一見、クリーンに見えても発電がどうかと言われれば、化石火力に頼るようならクリーンなイメージは失われる。EV化が進んでも発電の排出量が変わらないからである。

 

18世紀から21世紀への架け橋

こうしてみると18世紀に始まる電気化学は電解質の理解が進み最適化されてエネルギー貯蔵技術が本来のポテンシャルを発揮できる未来社会を支えるとも言えるのではないだろうか。しかし背景には計算幾科学、ナノ科学、放射光などのツールの活躍があることを忘れてはならない。こうした分野、施設への投資が実は未来社会への投資だったことを知ることになるだろう。

ファラデーに敬意を評した企業ファラデー・フューチャーはニコラ・テスラの名を付したテスラ社に対抗して超近代的なEVを製造する。ファラデーやテスラの時代はまさにこれから始まろうとしているが、電気を使えば済む問題でhない。EVだけで終わるなら先駆者達の名前を使う資格はないように思える。

 

 

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