水資源のアウトソーシングリスクに備える未来技術

水資源のリスクは人口増大に伴う世界的な規模の枯渇問題がある。また現実問題として「水の多国籍企業」が各国の水道事業のアウトソーシング先として、120カ国の水資源の管理、供給で急速な成長を見せている。水需要が驚異的な伸びを見せている中国は別として、日本でもアウトソーシングの域を越えた水道事業の「民営化」の議論が始まっている。

 

日本を狙う水ビジネス多国籍企業

巨大な水ビジネス多国籍企業に任せることは水道料金の値下げは歓迎されるだろうし、経営状態の悪い水道ビジネスが立ち直るきっかけになるかもしれない。しかしそれだけではない。その代償として国の安全保障に関わるリスクを抱えている。アウトソーシング先が国内企業でなく、その国のライフラインを多国籍企業が支配するからである。

しかし水道インフラが整備できていない低開発諸国では背に腹は変えられないというジレンマがある。また整備されていても維持コストの高騰で自治体の負担が大きい都市では、コスト削減のための各種行政サービスのアウトソーシングの感覚で、水道の民営化に進もうとする動きがある。しかし水道公社の民営化は国鉄や郵政民営化と異なる「安全保障」上の視点が必要ではないだろうか。

ここでは水資源の枯渇問題を解決できかもしれない水資源マイニング未来技術を紹介する。要するに身の回りにある水資源を利用する動きでである。誰しも地球上の最大の水資源である海洋水の減少するとは考えていない。むしろ海水面は長期的な時間スケールで上昇傾向が続いている。しかし水資源を淡水に限定すれば、その存在比率は全体の0.01%に過ぎない。この限られた資源を巡って時には争いが起こる。

 

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Global environment outlook (GEO), UNEP, Earthscan, London, 1999

 

淡水の需要は世界人口とほぼ比例しており、2015年に80億人を突破する人口の増大で灌漑・飲料のための水資源の枯渇問題は深刻になるばかりだ。発展著しいアジアを筆頭に開発が進む後進国では水資源の供給が都市化と人口増加に追いつかない。また水資源不足は先進国でも顕著になってきた。例えば米国のカリフォルニア州では干ばつにより農業への影響が深刻化している一方で、オーロビルダムの損壊の恐れで飲料水の確保に気信号が灯った。水資源の枯渇で農作物の供給量が減少すれば食糧危機となり、社会不安をもたらす。

新たな淡水源を開発することに限界があるが、それでは自然界に存在する水資源から淡水を低コストで製造することは可能なのだろうか。

 

海水の淡水化

海水の淡水化とは海水に約3.5%含まれるNa、Clイオンを濾過して淡水(ここでの定義は塩分濃度0.05%以下)にすることである。

実用化されている海水の淡水化にはふたつのアプローチがある。海水を蒸発して水蒸気を冷却し水に戻す蒸留法と海水に浸透圧に打ち勝つ圧力をかけ逆浸透膜(Reverse Osmosis Membrane)で濾過する逆浸透法である。前者は高純度の淡水を製造できるが熱効率が悪い。このタイプの淡水化装置は国内企業が得意とし巨大プラントを電力が豊富な中東に輸出し、世界最大100万トン/日の規模の大型装置が稼働している。電力消費が大きいこのシステムは電力事情の余裕のある国(中東)向きだが、実際、海水を水資源としなければならない湾岸諸国では欠かすことのできない水資源技術である。

後者は残存する塩分濃度で劣るが大電力を必要としない経済的な手法である。日本の誇る逆浸透圧膜の技術はこのシステムを通じて世界に広まりつつある。イスラエルの世界最大のプラントでは33万トン/日と蒸留法に迫る大規模化が進んでいる。一方、多孔質膜を水分子だけが通過できる多孔質グラフェン膜を水分子フイルターとして使う研究も進んでいる。水分子フイルターで海水を淡水化する技術がスケールアップすれば省電力で大規模な海水の淡水化が可能になる。

 

空気中の水分を回収する方法

MITとバークレイ研の共同研究グループは空気中の水分子を凝集して純水を製造する技術を開発した(Science Apr. 13, 2017)。新たに開発された技術ではMOF(Metal-organic framework)(注1)を用いて熱源があればどこでも動作させることができる。表面を親水性に加工したMOFパネルを太陽光を吸収する黒体の上においてパネルの下側を熱することで表面の温度との温度差が生じる。MOFの内部を多孔質とすることで表面に吸着した水分子が気化し、表面で冷やされて凝集する。

この原理は湿度の高い地域だけに限定されるのでない。感想地帯の典型的な湿度20%でも対応でき、MOF材料を最適化すれば数リットルの蒸留水を1日で得ることができるという。水道の惹かれていない地域や災害でも給水車の必要がなくなるとすれば、画期的な水資源マイニングと言える。

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Credit: Science

(注1)多孔質有機金属材料。個々の金属に適した有機フレームを設計することにより、触媒機能、特定ガス吸着、センサー特性などの機能性を持つ多孔質機能材料を創出することができる。

水資源の探究も必要だが、ここで紹介した海水の淡水化と空気中の水分回収技術は、身の回りに豊富にある水資源を有効活用する点で、将来の水資源枯渇を解決するキーテクノロジーとなる可能性がある。アウトソーシングに安易に頼っても根本的な問題解決にはならない。逆浸透淡水化技術も水回収技術にもナノテクに依存しているが、どちらの分野も日本のポテンシャルが高い。水資源アウトソーシングの先にあるこれらの技術を地道に開発していけば、水ビジネス多国籍企業に任せきる必要性はなくなる。もしかすると一般家庭が飲料水を製造して消費する自給自活も夢ではなくなるかもしれない。

 

 

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