バッテリー科学は問題解決型研究の成功例〜選択と集中のリスク

バッテリーは今後のEVや携帯端末の動向に影響するばかりではない。スケールアップで再生可能エネルギーのベース電源化が可能になるかもしれないのだ。昼間に太陽光や太陽熱で発電し、バッテリーに充電しておいて夜間電力とすれば、時間変動の大きい再生可能エネルギーも「ベース電源」として使えるかもしれない。

 

ギガファクトリーで世界が変わる  

バッテリーを巡る動きにはふたつの流れがある。一つは確立したテクノロジーであるPC用高性能Liイオンバッテリーを大量生産して、コストを下げ普及させる「物量作戦」的な戦略。パナソニックと共同でネバダ州にギガファクトリーを建設している米国のテスラ社がその代表である。ギガファクトリーの生産能力はバッテリー容量に換算して35GWh。この数字は2013年に生産された世界中のLiイオンバッテリーの総和より大きい。

 

電極材料に絞り込まれた研究開発 

もうひとつの動きは正極材料を中心としたLiイオンバッテリーの改良もしくはそれを上回る性能の新しいバッテリーで置き換えてから、量産化しようするアプローチである。中国のハルビン工科大の研究グループはグラフェンを用いその表面に直径約10nmのLiV3O8ナノ粒子を分散して正極とした高性能Liイオンバッテリーを開発した(Scientific Reports, Jan. 28 (2016))。

性能は200回の充放電サイクル後のエネルギー容量は237mAh/gとなりグラフェンへのLiV3O8ナノ粒子分散も容易であることから、グラフェンのエネルギー貯蔵応用として期待される。グラフェンは面内の電気伝導度が高い。単原子層正極はRFタグの電源など極小デバイスに電力を供給できるようになる。

 

srep19843-f5

Credit: Scientific Reports

 

従来の材料であるLiMn2O4に比べて電気化学的性能の勝るLiV3O8ナノロッドをLiイオンバッテリーの正極に使う研究もある(RCS Advances 49, 2014)。が特徴である。正極材料であるLi-MO酸化物(リン酸化物)は一昔前には結晶学や物性の研究対象であり、バッテリー材料としてもポテンシャルは有していたがナノ構造との組み合わせで、一躍Liイオンバッテリーの花形となったことは興味深い。爆発的な研究を支えたのは結晶学と物性研究の基礎研究であった。

 

b501961c-f15

Credit: J. Mater. Chem.

 

変質する基礎科学

基礎科学は産業に関与しないが純粋科学と同義語であった時代は過去となった。確かに現在は基礎科学とナノテクノロジーの両方が噛み合わないと(先端)産業のブレークスルーは不可能な時代である。大学の研究者の予算獲得にも最初に来るのは研究で何が実用化されるのか、何が普及するのか、コストが下がるのか、である。大学の研究者と企業と(序文では)見分けることが難しい。

特に最近の傾向として大型の問題解決型プロジェクト研究が幅をきかせ、その中に組み込まれないと大型備品を導入できない傾向が顕著である。またその研究組織はどの道、偏りが起きて研究環境の格差が大きくなってきた。一昔前は全国共同利用施設で予算に恵まれない大学の研究者にも先端機器を使って研究する機会が与えられていたが、共同利用設備の概念も変化が現れ始めている。

 

問題解決型研究と探索型研究 

しかし考えてみると問題解決型研究の成功例とされるバッテリー科学でも基礎科学の自由度が保障されたからこそ興味にまかせて研究し学術的成果を応用する突破口が開らかれたわけであり、時系列が逆なのである。研究者の視野を絞って問題解決型の研究にしか予算をつけない風潮は好ましくない。問題帰結型では問題(新しいテーマ)を見つけることができないからだ。

例えばLiFePO4を正電極に使いLiイオンが関わる固体電気化学の先駆者でLiイオンバッテリーの開発者ジョン・グッドイナフは遷移金属リン酸化物の応用のきっかけとなった(Journal of The Electrochemical Society 144 (4) 118 (1997)))。遷移金属とその酸化物の物理は当時の固体物性の先端分野でもあった。LiV3O8の背景にはバナジウム酸化物の金属非金属転移物理があった。

分野が成熟するとボトルネックの課題ばかりが残るので問題解決型の研究は難しくなる。探索型研究で新しい分野を見つけて移行して行くには両方の取り組みのバランスが大切なのではないか。

 

 

コメントを追加

セキュリティコード
更新

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.