新しいカシミール効果の発見〜ナノエンジニアリング応用に期待

カシミールというとカレーが頭に浮かぶ人は多いが、物理の世界のカシミールはスパイシーなカレーよりインパクトが大きい。一般的なカシミール効果は、ナノ世界にしか見られない量子効果である。簡単にいうと真空中に2枚の金属板を数10 nmの距離で近づけたとする。もちろん表面の凹凸や変形がnm程度に抑えられていなければ意味がない。またこの理想的な金属板は帯電がなクーロン力がない状態で真空中に置くことが必要である。この時に万有引力は無視できるとして、新たな引力が働く。この引力がカシミール力(Casimir EffectまたはCasimir Force)である。

 

 

カシミール効果とは

ナノ物質の世界では量子化がしばしば新しい現象を引き起こす。カシミール効果はそのひとつで、ナノスケールで現れる新しい力である。1948年にヘンドリック・カシミールが提唱した平行に置かれた2枚の無帯電状態にある金属版の間に働く引力で、1997年にラモローによって実験的に検証された。この現象は電磁場の真空エネルギー固有値が量子化された結果である。数式的な表現はややこしいが、真空中の電磁場を量子化して基底エネルギーを解析すると金属板の境界条件が量子化されたことで、真空エネルギー(カシミールエネルギー)期待値が有限の値となる。つまり金属板に引力が発生することになる。

ただし...

この場合は平行平板に垂直な方向に働く引力であることに注意しよう。

 

新しい横方向カシミール効果

ニューメキシコ大学を中心とした国際共同研究グループは無帯電金属板に近接した回転粒子間(下図)に、対称性の破れと双極子の熱的揺らぎで新たに横方向」カシミール力が働くことを見出した(Phys. Rev. Lett. 118, 133605, 2017)。これは常識的なカシミール効果と異なるが場の量子論的で解析できる別のカシミール効果と呼べる。

 

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Credit: Phys. Rev. Lett.

 

研究グループはこのカシミール力を量子電磁力学的に解析し、粒子間に働く横方向カシミール力がナノ粒子のサイズと金属板と粒子の距離に強く依存することを見出した。下の図は半径が10nmのグラファイトナノ粒子が金属板と30nmの距離で異なる回転周波数に対して働く力(N)と温度の関数として示したもの。粒子と金属板表面の温度は同じとしてある。点線は解析式の厳密解、実線は近似モデル。インセットは異なる温度に対する回転数依存性で温度に依存して横方向カシミール力の傾きが異なる。

 

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Credit: Phys. Rev. Lett.

この横方向カシミール力の研究は新物理であり、シミュレーションが始まったばかりである。実験が可能になる日が待たれるが、ナノエンジニアリングに応用できる可能性がある。

雲をつかむような話に聞こえるかもしれないが、仮にナノ粒子を2枚の金属板の間に回転させながらジェットで吹き飛ばしたとすると、サイズと位置によって異なる力を受けて、あるサイズの粒子を選んで集合させることができるかもしれないというのだ。

真っ黒のカシミールカレーを食べる際には思い出して見て欲しい。ナノ世界にはまだまだ未知の領域がある...

 

 

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