ソーラー・ジオエンジニアリングについて

ジオエンジニアリングという言葉を知らない人でも、近頃青い空を見る機会が減ったことに気がついている人は多いのではないだろうか。また消えずに拡散していく飛行機雲が増えたと感じている人もいるだろう。この飛行機雲もどきの正体はソーラー・ジオエンジニアリングと呼ばれるエアロゾル粒子を高空(成層圏)で散布することで、太陽光を遮蔽し地上に到達する熱量を減少させるためのものである。

 

ピナツボ火山の噴火

ピナツボ火山はフイリピンのルソン島西側にある火山で1991年に噴火を起こし大量の火山灰と硫酸エアロゾル粒子が吹き上げられ成層圏に達した。エアロゾル粒子はジェット気流に乗って世界中に運ばれ、1年にわたる拡散によってその影響は地球規模になった。また硫酸エアロゾル粒子によってオゾン層が破壊されたことでも知られている。

吹き上げられたSO2の量は約1700万トンと見積もられているが、このエアロゾル粒子の反射で太陽光の照射量は実に5%減少した。これによって北半球の平均気温が0.5度下がり、地球全体では0.4度減少した。そのためその年は冷夏で農作物の不作が記録された。エアロゾル粒子の太陽光反射率(アルベド)低下を人工的に行うのがソーラー・ジオエンジニアリングである。(厳密には反射率といっても、散乱・吸収を含むから太陽光透過率で表現すべきである。)ジオエンジニアリングには排出ガスを回収することで排出ガス濃度を減らす正攻法もある。しかし現実には簡単に低コストで行えるエアロゾル粒子の成層圏散布が実際に行われている。

 

ソーラー・ジオエンジニアリングの問題点

航空機によるエアロゾル粒子散布(ケムトレイル)は先進国の大都市上空で日常的に行われて久しい。問題は①微粒子散布は効果があるのか、②その影響が健康と地球環境に及ぼす影響、③(国税を使った事業なので)政府の説明責任などである。かなりの頻度で散布飛行が行われているのに微粒子散布の実態は公表されていない。

実施されているにもかかわらず、これまでジオエンジニアリングの科学的評価はなされていなかった。またその効果がもしあったとしても日照量の減少が、どのような副次的な結果をもたらすのかを精査する必要がある。

排出ガス規制のIPCC取り決めが守られないため、気候温暖化を止めるにはやむを得ないとする考えもあるが、その論理は根拠が薄い。実際、排出ガス濃度増大は止まらないが、1998年のエルニーノ現象を境に平均気温の上昇は停滞しており、IPCC自身が気候モデルシミュレーションに基づく温度上昇(2度)が誇張されていたことを認めているからだ。今急いで(国税を投入して)ジオエンジニアリングに踏み切る必要もない。また太陽熱輸送を遮断したとき、地球という複雑系に起きる環境変化についても考えておく必要がある。

都市部における排出ガスは各国が協調した規制やカーボンキャプチャ(注1)が行われるべきである。太陽光の遮断によって輻射熱を減らすことは、平均気温を下げても排出ガス対策にはならない。ジオエンジニアリング(注2)でその対策がおろそかになる。

(注1)植林や放牧のほか積極的なカーボンキャプチャ(人工光合成などで大気中のCO2を取り込む方法や還元して地中に炭素を戻すなど)や海洋中に溶け込んだCO2を回収する手法がある。

(注2)エアロゾル粒子の高空散布のほか無人の船で海水を人工的に蒸発させたり屋根の反射率を高めたり様々な手法が提案されている。

 

ハーバード大の成層圏実験

エアロゾル粒子として効果が期待されている物質はSO2、アルミナ、石灰、チタン、ダイアモンドなどであるが、成層圏の大規模な散布は様々な副次的な影響を及ぼすとして批判されている。もっとも深刻なリスクはピナツボ火山の噴火で起きたように気温が低下すれば、地表や海洋からの水蒸発が抑えられて、干ばつが起きることである。平均気温の低下と干ばつの影響が強めあって農業に打撃を与える。エアロゾル粒子散布の効果が明確にならないまま闇雲に続行することへの批判が高まる中、ハーバード大学の研究チームが2018年から気球を使って成層圏の散布によるアルベド計測を行うことになった。(幸い現在行われている規模では太陽光の遮蔽能力が低く全く意味がない。)

実験の目的はエアロゾル粒子散布による平均気温低下の科学的根拠を示すこととされているが、スケールアップすれば遮蔽効果があるのはピナツボ火山でわかっている。地球環境への影響をシミュレーションで予想される地球環境リスクを調べて公表する必要があるのではないだろうか。エアロゾル粒子に太陽光遮蔽能力があるが数年かかって地表に戻るので、1000万トン規模の微粒子を散布し続けるのは愚策でしかない。国税を青空に撒き散らすことはやめてほしい。

 

 

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