オルタナテイブ・テクノロジーを見極める

テクノロジーは成熟して社会になくてはならない存在になると、それを提供するメーカーとユーザーの利益相反をもたらす場合がある。時には科学技術の進展が反映されず、緩やかな性能向上で新製品を一定のスケジュール(ロードマップ)に沿って、市場に送り出すことで事業の持続性を確保するようになる。そうなるとユーザーは僅かな新機能や性能向上でしかない次世代モデルを買わされるようになり不満が募る。しだいに作為的なまでに遅々として進まないテクノロジーに閉塞感が募って、画期的な突破口はないかと思う人が増えていく。人々はは遅すぎるテクノロジーの進み方にうんざりし、希望を叶えてくれるオルタナテイブ・テクノロジーに飛びつくことになる。

 

オルタナテイブ・テクノロジーとは

そのような中で過去の経緯や概念を取り払って新しい観点で新技術や新概念を取り入れて、従来技術に挑戦しようとするのがオルタナテイブ・テクノロジーである。それらは要素技術は新しいものではないが、使い方に新規性がある場合や、方向性(ビジョン)がかつてないものであることが多い。

ここでは超高速列車を例にオルタナテイブ・テクノロジーを紹介して、それらの価値と現実度を検証し競合する技術との比較優位性を考えててみる。このテクノロジーの競合相手は日本の超伝導リニアモーターカーである。後者は新幹線型の車両を地上から浮き上がらせて、リニアモーター駆動で500km/hというかつてない速度領域で「従来型の」輸送を目指す。「従来型」といったのは現在と代わらないシートアレンジで外の景色を眺めながらの旅である。一方、ハイパーループは1個人がA地点からB地点へ高速で移動するが、従来型の旅行にとらわれない発想の輸送手段である。速度域で競合するといってもこの点で土俵が異なるので、厳密には比較に意味がないのかもしれないが、少なくとも国際的にはリニア新幹線への挑戦と受け取られている。

 

ハイパーループ

ハイパーループという言葉を聞きなれない人でもSFにある真空トンネルを弾丸のように高速で運行する超特急列車のイメージが頭に浮かぶであろう。現時点で営業運転の最高速度は上海のマグレブ・トレイン、常伝導磁気浮上型リニアモーターカーで、最高速度は430km/hとなる。

技術的には擬似的浮上とも揶揄される浮上高さが10mm程度で線路の変形に敏感なため耐震性などの安全性が指摘されている。これに対して日本が計画中のリニア中央新幹線は車体が100mmの高さで、超伝導磁石で浮き上がる真の浮上形式で最高速度は580km/hとなる。

 

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Sourece: 朝日新聞デジタル

 

リニア中央新幹線は日本の超伝導プロジェクトの柱として超伝導の基礎や材料、磁石製造など多くの科学技術分野に影響を与えてきた。強みは過去の新幹線技術の蓄積に立つ列車技術が生かせるので、延長上にあるリニアの大量高速輸送への信頼度は大きい。しかしその代償はコストであり、1kmあたりの建設コストは170-180億円、東京大阪間の建設コストは9.2兆円とされる。リニア新幹線は米国にも売り込みがかけられておりサンフランシスコとロサンゼルス間を結ぶルートの建設コストは700億ドル(日本円で8.4兆円)と試算されている。

一方、真空(減圧)トンネルの中を空気圧で突き進む弾丸列車、ハイパーループは音速に迫る超高速で都市間を結ぶ公共交通機関を目指している。2013年にイーロン・マスクにより提案されたハイパーループは時速620km/hでロサンゼルスとサンフランシスコ間を30分で結ぶが、建設コストが70億ドル(日本円で8400億円)とリニア新幹線の1/10で速度も上回る。

ハイパーループは果たしてオルタナテイブ・テクノロジーと言えるのだろうか。ハイパーループが高速で移動する減圧トンネルで車両は、浮上してトンネルの中心に車両が来るようにする。前面から取り込んだ空気を外側に排出して磁石の浮上をアシストし駆動力は磁石を用いるリニアモーターとなる。また車両重量は新幹線より遥かに軽いとしても、一定速度に達するまでの浮力の維持と停止までは浮力を保たなければならない。これがハイパーループで最も難しい技術となる。

ここでもっとも重要な発想の転換は減圧トンネル中の運動では空気の抵抗が低くなり最高速の向上や低燃費運行が可能になるという点で、そのための車両あたり乗客数のデメリットを運行頻度で解消しようとしたことによって相反する最高速度と輸送力の壁を解決しようとしたアイデアがここでのオルタナテイブ・テクノロジーの原点である。しかし減圧トンネルで空気圧を利用するには巨大なターボファンが必要であるし、車両の過ぎ去った後方が陽圧になりすぎると次に続く車両が影響を受けるので、トンネル全体を減圧することと空気圧を利用することが整合しなくなる恐れがある。トンネルの圧力制御は難しいので基本的な技術課題があるように見えるのであるが、リニア新幹線も含めて最大の難関である空気抵抗の問題に正面から取り組む姿勢は斬新である。

 

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Credit: Hyperloop

 

30秒間隔で打ち出されるポッドに収容される乗客は少ないので、大量輸送には不向きなように思えるが、ポッドを打ち出す間隔を短くすることで、時間あたり6000人の輸送力があるとしている。現在はラスベガス北部で開発試験を行っている段階であるが、ドバイとアブダビを結ぶ路線、英国のロンドン、エジンバラ、カーデイフ、リバプールを結ぶ高速鉄道も計画されている。また新たにチェコの自治体がこのシステムの調査に入った。

世界的に見れば高速輸送の需要は増大しているがコストの低い手段を模索していたところに、登場したこのオルタナテイブ・テクノロジーに注目が集まっている。一度に運べる乗客数は少ないが例えば1/10の乗客数なら運行頻度を10倍にすることで、問題は解消する。まだまだ未解決な問題は多いことは確かであるが技術的には音速(に近い速度域)まで可能とした低コストは魅力的である。

将来予想されるハイパーループとの競合に備えるにはリニア新幹線も、トンネルを減圧対応にして将来的な高速化のアップグレードを考えたり、当初から減圧トンネル技術を導入するなど、対抗できるような競争力をつける必要があるかもしれない。なおトンネルが多くてもハイパーループではトンネルを透明にしたり窓を液晶画面にして景色を投影することも計画している。

 

オルタナテイブ・テクノロジーが未来をつくる

オルタナテイブ・テクノロジーの登場で競争が激化すれば従来技術の進捗速度も上がる。再生可能エネルギーの中にも原子力と競争して勝ち抜けるものが出てくるかもしれないし、内燃機関がEVやFCVなどのオルタナテイブ・テクノロジーにとって代わられる時代が近い。核融合もトカマク型の大型化のスケールメリットがないという研究によりコンパクトな核融合炉が実用化に近いとも言われる。大型加速器にもコンパクト化の波が押し寄せている。そう考えるとオルタナテイブ・テクノロジーは従来の問題点の抜本的克服を狙った自然な流れでもあるのかもしれない。

 

オルタナテイブ・テクノロジーにはリスクや代償も潜んでいるかもしれない。 ハイパーループで言えば透明なチューブの場合には強度や劣化の問題があり、高速で運転間隔が短いとなると安全性の担保に相当な労力とコストがかかるであろう。オルタナテイブ・テクノロジーの価値とリスクを「見極める」必要がある。

 

 

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