21世紀はカーボンの世紀となるか〜未来を開くカーボンデバイス

19世紀は機械の世紀、20世紀は情報の世紀と呼ぶことができるとしたら、21世紀は量子の世紀と呼ばれるかもしれない。その場合、カーボンの世紀となる可能性が高くなった。もちろん19世紀にも内燃機関の燃料の主役は化石燃料であり鉄鋼産業を含めれば鉄とカーボンの世紀でもあった。同様に20世紀はシリコンの世紀とも言えるだろう。21世紀に活躍するのがカーボンになることを誰が予測していただろうか。

 

 シリコンチップが低コストデバイスに結びついたように資源量とコストの安さでカーボンがシリコンに置き換わるなら、シリコンを上回るデバイスのコストダウンとなることも夢ではない。ここで紹介するカーボンデバイスの魅力はコストではなく驚異的な性能にあるがその開発を担うのは回路やシステムの専門家ではなく物理学者となるだろう。

 

ダイアモンド量子計算機

単一の量子状態のコヒーレンス(位相秩序)の実現は量子計算機の実用化に欠かせない技術要素である。Qubitの量子もつれを利用した量子計算機や量子暗号通信では、安定な素子を製造する必要があり、それには時系列コヒーレンスの観点から(バイオ素子でなく)スピン量子を用いた固体素子でなければならない。

残念ながらジョセフソン素子など固体素子は極低温で動作するので、固体素子による量子計算機は希釈冷凍機システムとなる。d-wave system社の128qubit量子計算機(下図)もそのため、回路が20mKまで冷却される冷凍機に搭載されている。

 

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Credit: d-wave systems

 

本格的な応用には室温で動作する量子計算回路が望ましい。ダイアモンドのNVセンター(窒素欠陥)のスピンとレーザー励起は、室温量子計算ロジックを可能とする(T, Gaebel et al., Nature Physics 2, 408 (2006): J. Morton, Nature Physics 2, 365 (2006))。NVセンターの制御には窒素原子のデルタドーピングが利用できる。

ダイアモンドは実用的な量子計算機の材料として脚光を浴びるようになった理由は気相成長技術(CVD)の発展によるところが大きい。これまでもトラップされたイオンの2準位量子状態用いた量子計算機が開発されていた。その後、イオントラップの原理をもつ個体素子に応用する試みが精力的に行われ、光学遷移による個体素子(Otically driven Rabi振動子(ODRO)やStimulated Raman adiabatic passage(STIRAP))の研究開発が急速に進んだ。

 

ダイアモンドNVセンターのエネルギーダイアグラムは下の模式図で示される2準位システムとみなせる。同様な2準位システムを結晶欠陥で作ることにより、SiCやダイアモンドで室温個体素子による量子計算機が可能になる(Golter & Wang, PRL 112, 116403 (2014))。

 

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Source: montanainstruments

 

ナンテロ社の高速カーボンナノチューブNRAM

ナンテロ社(注1)が製造予定の新型NRAMにはカーボンナノチューブを使われる。このカーボンナノチューブNRAM(下図)は従来のNAND型フラッシュメモリーの1,000倍で動作可能でDRAMと同等の高速性を誇るが、従来の金属酸化物半導体によるNRAM製造ラインが使える点が注目されている。

(注1)マサチューセッツに拠点を持つ社員50名ほどの小さなハイテク企業で米国出願特許200件、取得済みが175件の実績を持ち、ファンドリと契約して新型NRAMを製造する。

 

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Source: computerworld

 

グラフェンデバイス

グラフェンは炭素原子が作る6員環が2次元に繋がってできたシート、グラフェンは特異な電子状態(デイラック・フェルミオン)に起因する極めて高い移動度を持つことから、カーボンナノチューブと並ぶナノカーボン材料で、センサーからFETトランジスタに至る多岐に渡るデバイスへの応用が期待されている。

FETトランジスタへの応用ではグラフェンの輸送特性が垂直方向の外部電界に大きく依存することでスイッチングに利用している。2010年にIBMは100GHzのグラフェンFETを開発して以来、研究が活発化し2012年にはサムスンがグラフェン・トランジスタで世界初となる電流オンオフ制御を達成した。また量産可能な高品質グラフェントランジスタの作製技術も確立された。

 

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Source: grapheme-uses

 

カーボンデバイスはこれからのエレクトロニクスの主役になるほどのポテンシャルを秘めているがやはり市場を考えると最大の魅力は圧倒的な存在比により、原材料のコストの低さである。といってもカーボンナノチューブも人工ダイアモンドも製造プロセスが低コストであるというわけではないが、人類にとって一番身近な存在と言える炭素は21世紀を担う元素として熱い視線を受けている。

 

下図にグラフェンシートを用いたDNAシーケンサーの概念を示した。図中のaはDNAに付随するイオンの移動を電荷で、bはトンネル電流の変化、c、dはDNAの通過と吸着を面内電流でそれぞれ計測する原理を模式的に示したもの。

 

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Source: Nature Nanotechnology 11, 127–136 (2016)

 

 

 

 

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