• Last Updated : 2017/10/23.

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リニア中央新幹線(JRマグレブ)は日本の超伝導技術の柱として超伝導の基礎や材料、磁石製造など多くの科学技術分野に影響を与えた。JRマグレブの強みは過去の新幹線技術の蓄積に立つ従来型列車技術が生かせるので、現実的な大量高速輸送への信頼度は大きい。しかしその代償はコストであり、1kmあたりの建設コストは170-180億円、東京大阪間の建設コストは9.2兆円とされる。

 

ハイパーループはJRマグレブの脅威となるか

JRマグレブは米国にも売り込みがかけられており、サンフランシスコとロサンゼルス間を結ぶルートの建設コストは700億ドル(日本円で8.4兆円)と試算されている。一方、真空トンネルの中を空気圧で突き進む弾丸列車、ハイパーループは音速に迫る超高速で都市間を結ぶ公共交通機関を目指している。2013年にイーロン・マスクにより提案されたハイパーループは1,080km/hでロサンゼルスとサンフランシスコ間を30分で結ぶとされる。その建設コストが70億ドル(日本円で8,400億円)とJRマグレブの1/10としている。本来なら新技術であればfeasibility studyを徹底的に行い、課題となる要素技術をひとつひとつクリアした上で、建設コストと採算性を吟味するべきだが、ハイパーループに関してはそれらの段階を経ていないうちに、正体がわからないまま期待が先行して膨らんだ印象を受ける。

ハイパーループは簡単に言うと真空トンネル内マグレブ列車で、一つの車両(ポッドと呼ばれる)の乗客数が12名で3分間隔で運用されるので、新幹線のような大量高速輸送に対して運行頻度、安全性、そして何より採算性には疑問符がつく。またポッド設計が国際コンペであるため重要な仕様が不透明である。提案者のイーロン・マスク氏のいう第5の交通機関になりうるのかは推測の域を出ない。ここでは技術的課題を考察して現実度とJRマグレブの競争相手になる可能性を簡単に検討してみる。ごく大雑把な話で恐縮であるが、本質的な技術課題が何かを知るには十分だと思っている。

 

浮上形式はインダクトラック

浮上形式は当初のエアクッションから磁気浮上に変更された。片側の磁場を強くするハルバック配列の永久磁石を用いたインダクトラックでは5km以上の速度で浮力を発生する。したがって着地と低速走行の補助輪があれば良い。駆動トラックは別のリニアモーターとなる。浮上形式と駆動方法の最終案は国際コンペの優勝チームの方式となるため、ここでは磁気浮上については別記事を参考にしていただくことにする。プロトタイプがテスト区間で310km/hを記録したとされる。 ハイパーループは路線の上に太陽光パネルを設置して消費電力を上回る発電能力も併せ持つとしている。

真空トンネルの規模

ロサンゼルス〜サンフランシスコ間の距離は600km=6x105m

したがって単線トンネルの全体積Vall=4.2x106m3

 

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Credit: abbessトンネルの粗排気

 

初段のポンプは機械式ポンプでそれをバックポンプとして、2段目にメカニカルブースターポンプを使用するのが定石と思われる。ULVAC最大のロータリーポンプ(PKS-070)は7000L/minで、24時間運転で排気できるのは〜2.52 x104m3なので全区間の排気には100台を区間ごとに分散配置すれば、要求される1mbar=100Pa=0.75Torrの真空度は十分達成可能となる。

したがって600kmトンネルをメカニカルポンプで、排気することのは可能な範囲に入るだろう。なお復路も含めると2本の独立したトンネルとなるので、PKS-070なら全部で200台を用意する必要がある。

 

ステーションのエアーロック

次の問題は乗客が乗り降りする空間は、両側をゲートバルブで閉じきって乗降用のハッチを持つ空間を作り、ポッドの運行間隔に合わせて機械式ポンプの到達真空度まで大気圧にリークして再排気することである。簡単に言えば超高真空システムにおけるエアーロックのようなもの。ここで運行間隔は3分なので1分30秒でリークと排気を完了させる必要がある。安全な真空リークには10秒かかり安全確認に10秒をみると、実質1分が排気に与えられる時間となる。これは実用的な時間なのだろうか。トンネルの真空仕切り毎の排気と一緒に考察してみる。

ポッド長は255インチ〜6.5mだが前後に余裕を持たせれば、トンネル直径3mで長さ10mの円柱の空間、47m3を排気することになる。下図はジョージア工科大チームの設計案(コンペ1、2位はMIT、デルフト大チーム)。PKS-070をここでも用いると、1分運転で排気できる体積は7m3なので、ターミナルでは一箇所にPKS-070を10台程度まとめて設置することになる。ロサンゼルス〜サンフランシスコ間に途中駅はないので、それぞれのターミナルに2本分で20台づつ計40台を設置することになる。コストを考慮しなければ(エレガントとは言えないが)これも不可能とは言えない。

 

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Credit: slideshare 

 

真空しきり(ゲートバルブ)

ゲートバルブは超高真空対応なのでトンエル真空を0.1Torrにダウングレードすれば簡単なのだが、ハイパーループトンネル圧力は1mbar=100 Pa=7.5x10-1Torrと決められている。直径が3.5mまでの工業用バタフライバルブは市販されているが、改良しても一方が大気圧だと使えないので、ダウングレードしたゲートバルブを採用するべきと思われる。エアロックは製作できたとしても、途中停車駅を作るのは難しい。したがってハイパーループとはA 地点からB地点に高速に移動する手段と言えるだろう。

簡単のため600km区間を600mづつ、全1000区間に分割すると1つの真空セクションの体積は4.2x103m3=4.2x106lになる。

ハイパーループトンネル圧力は7.5x10-1Torrなので、ロータリーポンプの到達圧力(10-3Torr)まで排気することは(排気に要する時間を考えなければ)容易である。実用的には排気速度を上げるにはロータリーポンプをバックポンプとしたメカニカルブースターポンプが適している。例えばPHIL社のMB-2500ZBでは排気速度2,100m3/hで到達真空度は10Paとなる。

 

排気時間の考察

S=V/T x 2.3 log (P1/P2)

760Torrから0.1Torrまで排気したいとする。排気速度S(l/min)、排気時間T(min)、真空容器容積V(l)、P1P2を初期圧力(Pa)、最終圧力(Pa)とする。MB-2500ZBの排気速度排気速度Sは2,100m3/h=3.5x104l//minなので、MB-2500ZBのスペックと1区間の体積を用いると

T=1.1x103min=18hrs

トンネル全体を100Paにするには14hrs必要になるが、1000分割は現実的でないので100分割にすると28hrsとなり、2本分でも現実的なレベルとなる。ただしこれはリークフリーの場合で、実際には接合部リークや夏場の温度上昇による脱ガス、ステーションのゲートバルブ開時の真空度不整合による真空悪化を考慮すると、不可能とは言えないが現実的かと言われれば疑問符がつく。特に日射の影響でカリフォルニアでは夏場には、外に置かれた金属は50Cになるのも珍しくはない。温度制御となるだろう。600kmをハイウエイに沿って建設するイメージ図は非現実的と言わざるを得ない。

ロータリーポンプとメカニカルブースターポンプは機械式なので、連続運転の場合は加熱対策や綿密な維持管理が必要になる。エアロックに40セット、トンネル部上下線で100セット、交換・保守のためのバックアップもその半分は用意する必要がある。全体では300セットの運用が望ましいので、無理のない範囲に収まると言えなくもない。

なお真空トンネルの強度計算によると真空容器の材料と厚みはSUS、20mmが必要とされるので、そのことを前提とすると鉄道関係者が頭を悩ましてきた厄介な問題が生じる。

 

温度変化による熱膨張について

ΔL=α*(T2-T1L

ここでT2=40C、T1=20C、α=16.39x10-6/C(SUS)、L=600km=600,000,000mmを使うと全区間の温度上昇による長さ変化は

ΔL =196,680mm〜196.7mとなる。

20Cで設置した全長600kmのSUSチューブは40Cで196.7m長さが伸びることになる。

真空パイプを接続するときには、ベローズという蛇腹状の収縮自由なジョイントを用いる。加速器(放射光)でほぼ45mの輸送系に8-10種類の光学素子、ビームラインコンポーネントが入る。その半分にベローズを入れるとしてパイプの長さは約10m毎に1個挿入されることになる(ビームライン設計に依存する)。超直線部が長い場合でも伸縮距離はせいぜい20mm程度なので196.7mの伸縮を±10mmベローズで吸収するには、196.7/0.2=983箇所に設置しなければならない。ということは600kmのトンネルをおよそ600mで1,000区間に区切り、接続部にベローズを設置することになる。これも不可能ではないが各区間のチューブの架台にはXY自由度が必要になり、接続の位置調整に若干のZ調整機構も必要になるジョイント部が数100箇所できる。なおベローズ部分は強度が低くなるので架台の補強は避けられない。また温度制御しない限り気温と日射量に対応しなければならない。精密な位置センサーが分割区間ごとに必要だ。

 

真空排気による空気抵抗の低下について

空気抵抗Fは以下の簡単な式で表現できる。

F=ρ*Cd*S0*v2/2

ここでρはトンネル内の空気密度、Cdは空気抵抗、S0はポッドの投影面積、vはポッドの速度を示す。またFを1/1000にするには気圧を1/1000気圧〜0.76Torrに下げなくてはならない。もし機械式ロータリーポンプで1分排気のため10-1Torrにまでしか排気できないとしても、Fを1/1000にすることはできそうだが、ハイパーループ基本仕様真空度(0.75Torr)はFをさらに小さくするように(速度1,080km/hを目標に)決められたと思われる。

 

ハイパーループは超高速のボブスレーに乗り込んで厚さ2cmのSUSパイプ中を走る弾丸列車のイメージになる。以上の粗っぽい考察から見て最大の難関は真空排気のようだ。しかし採算性を大きく左右する3分毎に12名乗車ポッドを打ち出されるとして、エアロックの回転率も順調にいったとして1時あたりの最大輸送人員は2,160名だ。一方JRマグレブは1編成1,000人で100本/日のスケジュールなので4,170名。JRマグレブの倍の速度で真空トンネル中を打ち出されて30分で着くのが良いか、1時間かけて景色を見ながら、ゆったりとした新幹線の旅を楽しむのが良いかは個人の自由である。皆さんはどちらを選ぶだろうか。ちなみに筆者のような閉所恐怖症の人間には無理であるので乗客になりたいとは思わない。

ハイパーループの緊急停車時に停車した真空区間をリークして乗客を降ろすしかない。全ての部分をエアロックにするわけにもいかないから緊急避難区間まで補助輪を下ろしてモーター駆動で辿り着かなければならない。音速に近い速度だけが強調されて一人歩きしているが、地震などの自然災害への安全対策、緊急時の乗客の脱出方法などが計画に含まれる必要がある。個人的にはハイパーループは(弾丸列車という夢を応援したい気持ちではあるが)課題が多すぎるように(個人的には)思える。

  

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