ナノ磁性物質のゼロフイールドスイッチング(ZFS)効果

ゼロフイールドスイッチング(ZFS)効果で、低電力メモリや演算デバイスがさらに微小化できる可能性がある。ここでいうZFSとは聞き慣れない現象であるが「磁場のない状態で駆動する」という意味である。

 

磁気光学カー(Kerr)効果(MOKE)とスピン軌道相互作用の電流誘起スピントルク(SOT)は実用的なスピントロニクスデバイス原理として注も祈雨されている。しかしこれまでSOTスイッチングでは面内の磁場印加を必要としたり、難しい複雑な手法が必要になる場合に限定されていた。

 

磁場の必要がないSOTスイッチング

NISTの研究チームはそれぞれ反対向きのスピン流を供給する2つの異なる重金属超薄膜を接合して、磁場のない面内電流だけで垂直磁化を切り替えるデバイス構造を開発した(Ma et al., Phys. Rev. Lett. 120, 117703, 2018

 

下に示す概念図ではPt、W層とCoFeB磁性膜層が挟み込まれてAu電極に接合した3D構造を示したものである。ここで灰色の基板はSiである。

このナノ構造ではnmオーダーの厚みのCoFeB磁性超薄膜がメモリとして機能する。1(黒い矢印), 0(白い矢印)状態はそれぞれCoFeBが上向き、下向きの磁化に対応する。1,0状態は磁化によって反射率が変化するMOKE現象を利用することによって、光学的もしくは電気的に読み出すことができる。

 

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Credit: NIST

 

スピン軌道トルク(STO)を用いてつくるスピンの向きが揃った電子流の向きは磁場中で逆向きとなる。CoFeB膜に沿って流れるスピン流にトルクが働き、磁化の向きが反転する。スピン流がなければCoFeB膜の磁化は安定でメモリとなる。

下図で青色の矢印スピンの反転する向きを示している。例えばW層ではxy平面で向かって左側の方向にスピンが揃った電子はCoFeB層の方向へ動き、反対方向に反転すればSi層方向に動ていく。Pt層のスピンが右方向に揃った電子はW層方向に、左方向の電子はSi層へ移動するのでW層と正反対の電子移動となる。

下図の(a)は従来のSOTスイッチング、(b)は異常ホール効果、(c)磁場を必要とするスイッチング、(d)は競合するSOT効果、(e)正負電流に対する異常ホール効果、(f)磁場の必要のないスイッチングを示す。

 

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Credit: Phys. Rev. Lett.

 

ランダムアクセス磁気メモリなど最新の不揮発性磁気メモリでは電流駆動のスピン軌道トルクによる磁化反転に基づいている。スピン軌道トルク駆動の磁化反転をスピントロニクスデバイスでも模索する試みが世界中で活発化している(スピン軌道トルクでトポロジカル絶縁体(強磁性体)に室温で磁化反転させるスピントロニクスデバイスが模索されている。

磁場のない「ゼロフイールド」スイッチングはスピントロニクスの意外と早い実用化に結びつくかもしれない。構造が現在のシリコンデバイスと同じで、生合成が良いことも有利な点である。またnmオーダーの金属薄膜積層も既存の技術で対応できる。先端的な物性物理とエレクトロニクスが表裏一体の関係になりつつあることは興味深い。

 

 

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