暗黒物質に挑む粒子検出器SuperCDMS

PNNL(Pacific Northwestern National Laboratory)は米国エネルギー省管轄の国立研究所で、職員4,000人がエネルギー、環境、ソフトウエア、サイバーセキュリテイなど多岐にわたる分野の研究開発を行なっている。PNNLはその名前が示すように西海岸北部(ワシントン州、オレゴン州)ではよく知られた研究開発の拠点なのだが日本ではあまりよく知られていない。ワシントン州にはかつて核兵器施設があった。PNNLはハンフォードと深いつながりがある。

 

ハンフォード核施設から生まれたPNNL

1965年から民間のバッテル研究所のマネージメントに置かれている。PNNLの歴史は1940年代のマンハッタン計画のハンフォード濃縮プルトニウム精製施設に始まる。1965年からバッテル研究所が研究開発拠点として運用し60年代の米国の科学技術発展に大きく貢献した。

そのPNNLが暗黒物質の研究も行なっていると聞くと意外に思えるかもしれないが、暗黒物質は究極の物質・エネルギー科学の課題であるからでエネルギー省管轄であることは自然なのかもしれない。研究所の起源を辿るとハンフォード核施設であることから推察できるように、原子力と高エネルギー物理は荷電粒子やγ線の検出器を共通の技術課題として密接な関係にある。オークリッジ国立研究所の周辺にも半導体検出器メーカーを始め多数の原子力関連会社が拠点を持っている。

 

SuperCDMSによる暗黒物質探査

宇宙の大部分を占めるにも関わらず光子で観測不可能なため暗黒物質は重力波の歪でしかその存在を認識することができない。最近、重力波やγ線観測が世界各国で活発化し、大型加速器による検証実験も期待されているが、地上・宇宙空間を問わず観測を支えるのはフォノンと電荷を検出できる特殊な仕様のGe検出器(AIP Appl. Phys. Lett. article 2013)である。暗黒物質観測の中心となるのがSuperCDMS(Cryogenic Darkmatter Search)と呼ばれる検出器(下の写真)である。

 

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Credit: AIP Appl. Phys. Lett. article 2013

 

SuperCDMSは日本を含む100人以上の研究者が推進する国際共同利用プロジェクトである。この検出器は暗黒物質の解明が素粒子の標準理論を越える新理論の確立に向けた観測実験を目的として設計されている。

暗黒物質をつくる未知の素粒子は相互作用が小さすぎて、これまでの荷電粒子検出器では検出できない。つまり直接的な検出ができない。そこで原子核が暗黒物質と衝突した時の反跳エネルギーを捉えることになる。この為に検出器結晶(Ge)の中で暗黒物質と原子核衝突の際のイオン化(電荷)とフォノンを検出できる特殊な検出器が必要となる。

 

このような検出器をiZIP(interleave Z-sensitive Ionization Phonon)検出器と呼ぶ。"interleave"という意味は一番上の写真のようにフォノンセンサーと電荷センサーが交互に配置されているからである。検出素子は直径76mm、厚さ25mmのGe単結晶である。素子の上下面に対称に電荷センサーとフォノンセンサー(下図)が配置され、表面イベントとバルクイベント、電荷(電子)と反跳エネルギーを分離することができる。両面に8(4+4)本のフォノン検出TES素子アレイ出力、4個(2+2)のイオン化(電荷)検出用の電荷検出出力を有する。フォノンセンサー(下図)のインセットはTESセンサー部を示す。

 

FIG3

 

Source: inspirehep.net

フォノン信号(下左)からエネルギースペクトル(下右)が得られる。ここでは更正に使った356keVのBa133ピークが消えている。

 

FIG13

Source: inspirehep.net

 

Super CDMSの他にもPNNLはシンチレーション検出器PICOMiniCLEAN、などの特殊仕様の検出器システムを開発している。これらの検出器は露光技術によるものでPNNLの中の微細加工研究施設の利用が必要であった。

 

原子力技術を使いこなそう

PNNLは質量分析を始めとする高度計測技術に定評があるが、その起点は核兵器製造施設に日常的に必要とされた検出器であった。核兵器研究も冷戦終了後に下火となったため、ハンフォードのプルトニウム精製施設は閉鎖されたが、その研究開発の人的資源と周辺の関連企業を民間の管理として、研究開発拠点った。オークリッジ同様にエネルギー省が管轄する国立研究所として現在は幅広い科学技術の研究開発拠点に様変わりしている。

環境汚染をもたらす核廃棄物処理の責任を背負う立場でクリーンアップ技術、河川の汚染分析技術や農業技術に至るまで幅広い環境保護の砦となっていった変貌は興味深いものがある。一旦開けられた原子力の「パンドラの箱」を閉めることはできないが、原子力周辺技術は諸刃の刃で地球環境への影響を最小限に食い止める技術開発や宇宙の起源解明に核開発で技術を生かすもできるということなのだろう。

 

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