低線量放射線のヒトや動物への影響について

 低線量の放射線が,人体にどのような影響を及ぼすかを考える上に,動物を使った実験は非常に有用な情報を与えてくれます。この点でも,近藤宗平著「ヒトはなぜ放射線に弱いか(講談社,ブルーバックス)」に先駆的なデータが載っています。基本的には今でも近藤先生の書かれている主張がそのまま使用できると思います。


 最近出た本では,この6月に出版された、宇野香津子著「低線量放射線を超えて(小学館新書)」が出色ものです。免疫学専門の立場をフルに生かして,原論文を読みこなし,周囲の「あいんしゅたいん」所属の研究者たちとの討論を踏まえて、重要な提言をされています。
 僕は今回の震災・原発事故に伴って起こる諸事象に対して,科学者が集団としてきちんとした情報発信を行い,いろいろな立場の方の意見と真摯に向き合っていくことが長期的に見て最も重要な事だと考えてきました。宇野さんの本のスタンスはまさにその点にあります。


 それらは是非読んでいただくとして,ここではもう一つ大変貴重なデータを紹介したいと思います。これは,公益財団法人「環境科学技術研究所」が,青森県の委託を受けて行った調査の一つですが,「低線量率放射線の生物影響に関する調査」をマウスを使って,6項目にわたって調査しています。出された結論のいくつかは

1. 低線量放射線照射マウスの寿命について
  20mGy/日を 400 日間続けた場合, 明らかな寿命の短縮が認められる。 1mGy/日以下の場合には,顕著な寿命の短縮は認められない(図1参照)。
2. 放射線照射と染色体異常頻度の関係について
  20mGy/日,400mGy/日で全線量が 8Gyになるまで長時間照射した結果,いずれも全線量と染色体異常頻度との間に直線的依存関係が認められた。全線量が同じ場合,線量率が低い方が異常頻度も低くなるという結果が得られた(図2参照)。
3. 放射線と白血病(線量率による違い)
  20mGy/日を 400 日間(全線量:8Gy), 400 mGy/日を 10 日間(全線量:4Gy), 1Gy/分を3分間 (全線量:3Gy) で照射したところ,白血病が発症する割合が,より早い時期にピークを迎えることが明らかになった (図3参照)。

のようにまとめられています。ここで得られた結論は,まだまだ我々が知りたいことの一部でしかないし,マウスと人とでは放射線に対する耐性度も異なると思われます。しかし,近藤先生の本に書かれた結果と併せて考えると,低線量放射線の場合には,がん発症などが始まる線量にはどうやら閾値(いきち)がありそうだという結論は言えそうな気がします。ではそれがいくつぐらいか,その機構は,などの問いに対しては,次回以降ゆっくり考えていきたいと思っています。

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図1.低線量率放射線照射マウスの寿命変化。右の数字は400日間に浴びた全放射線量を表す。例えば8000 mGy とは,20 mGy/日を 400 日間続けたことを表す。

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図2.放射線照射による染色体異常頻度。異常頻度と全照射線量がよい直線関係を示しているのが分かる。


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図3.マウス白血病発生時期の線量率による違い

環境科学研究所HP (http://www.aomori-hb.jp/ahb3_3_0.html)より

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コメント  

 
# Tetsuya 2013年10月15日 09:43
マウス白血病発生時期の線量率に よる違いで中線量率の白血病発生 率が、線量率の低い場合と高い場 合の間にこないのは、線量率に依 存した複数の機構があるからなの でしょうか。興味深いデータと思 いました。
 
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