生物への放射線の影響

放射線の生物への影響については,3つのことを区別して考える必要があります。

まず,第一は,物理学的な損傷です。今までの多くの事象から,ヒトは数Gyの放射線を浴びるとほぼ半数が,10 Gy を全身にあびるとほぼ全員が死にます。しかし,このエネルギーを熱エネルギーと考えると,体内の温度はわずかに2/1000 度しか上がらないことになります。

 したがってヒトの致死量は、決して物理学的な熱損傷によるものではありません。

第二の影響は,確定的影響と言われるものです。これは,被曝してから数週間内に起こる事象で,特にその最たるものは,上にあげた被爆死です。それに関して重要な事実があります。すべての生物は,同じ被曝量で死ぬか,という問いの答えはノーです。クマムシの場合には,5,000 Gy を被曝しても死なないことが知られています。また放射線耐性菌というものがあります。これらの致死量は,ヒトの数千倍です。同じ微生物でも大腸菌の致死量は,ヒトとあまり変わらないので,生物への放射線の影響(致死量)は,決して物理・化学的にのみ決まったものではないことが分かるでしょう。

生物が被曝したとき,最初に起こること(化学過程)は,DNAや蛋白質等の生体構成物質のラジカル化や化学結合の切断です。それはすべての生物に共通の過程です。ですから,被曝による確定的影響は,何らかの理由で(普通,これを生体の防御機構といいますが),強い生物種特異性を持っているということになります。この防御機構については,あらためて触れていこうと思います。

第三の影響が,確率的影響と言われるものです。前回のコラムで,広島・長崎の被爆者の方々のその後の追跡調査の結果,100 mSv 以上被曝したと思われる方々の固形がん発症率が有意に高いという結果を示しました。遺伝子変異の割合も高いというデータもあります。ガンの発症や,遺伝子変異が起こる確率が高くなるーそれならその割合を少しでも減らしたい--- これはある意味で当たり前の行動です。そしてこれが低線量放射線の社会問題の本質でしょう。

では,本当にそうなのだろうか? これについて,次回以降順番にていねいに議論していきたいと思います。取り上げる課題は,次の通りです。

・ヒト以外の生物への低線量放射線の影響

・被曝線量の強さの効果

・ヒトへの低線量被曝の影響

・  生物の放射線防御機構

などです。多くは,既にどこかで議論されてきています。ただ同時に異なった主張が「科学者」により,主張されてきています。このコラムでは,安易に著者の主張を述べるのではなく,どうしてそのような異なった主張が出てくるに至ったかの問題を最も関心を持って考えていきたいと思います。

 

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