放射線の生物への影響は,被曝した放射線の線量率に依存する

 放射線の生物への影響については, 前回までに (1) 100 mSv 以上の被爆とガンの発生率には関係があること、(2) 高線量被爆地域のデータから, 15 mSv/年までは,被曝量とガン発生率に因果関係が認められないこと、(3) 動物実験の結果は,ガン発生率が増加し始める被曝量には閾値があること,を綴ってきました。では,ヒトの場合、この閾値がどのくらいなのでしょうか? 以上の結果から考えて、どうやら 20mSv/年から 100mSv/の間ではなかろうか,と思われます。が,今回はその問に答えるのではなく, 上の (1) と(2)+(3) の間の重要な違いについて触れてみたいと思います。


 ガンの放射線治療ではよく知られていることですが、総量として同じ放射線を照射する場合でも,分割して照射する場合には,効果が少なくなります。このことを考えるための基礎データを示しましょう。図1です。これは,同じ放射線効果をもたらすのに,どれだけの線量が必要かということを,鶏卵のLD50(半分の個体が死滅する線量),ヒトの皮膚紅斑(皮膚が赤くなる現象),マウスのLD50 についてまとめたものです。明らかに線量率が低いほど一定の効果を得るのに必要な総線量は大きくなっています。

fig.1

 あるいは,図2のようにまとめたほうが分かりやすいかも知れませんね。ここで LET とは,linear energy transfer (線エネルギー付与)で,「放射線照射によって作られる荷電粒子の飛跡に沿って単位長さ当りに局所的に与えられるエネルギー量」として定義されます。図2に示すように,ガンマ線やX線など低LET放射線と言われるものほど,その効果は線量率に大きく依存します。このことはどのように考えたら良いのでしょうか。もし放射線による損傷が独立かつ不可逆過程で,一度起こった事象が元に戻らないとすると,このような損傷は,その生物が被曝した全線量に依存する(最も簡単には比例する)ことになり,線量率には依存しないことになります。線量率に依存するということは,協奏効果があるか,回復効果があるかのどちらかでしょう。回復効果については,従来からDNAが二重鎖であることから,たまたま一方の鎖が損傷を受けても元に戻すことができるだろうということ,またDNAの損傷が回復不可能になったときには,その細胞を殺してしまう(アポトーシス)機構が働いているのだと説明がされています。これがすべてでないとしても,損傷が致命的でないときには,回復効果があるという説は信じて良いと思われます。

fig.2


 ところで,以上の議論に用いてきたデータは,第2回で行った定義による「確定的影響」に基づくものです。では,発ガンなど「確率的影響」にも同じ回復効果を仮定して良いのでしょうか? これは第4回で取り上げた高線量地域の発ガン率が年間の被曝量に寄らないという結果から,イエスと答えて良いと思われます。



総被曝量か被曝線量率か
 さて,今回議論したかったもう一つの問題は,低線量被曝の場合,重要なのが被曝線量率なのか総被曝量なのかという問題である。もし,総被曝量が重要であれば,10mSv/年の下で20 年間生活すれば,200 mSv の被曝量となり,第1回で取り上げた広島・長崎のデータから,発ガンの確率は有意となると考えられます。これは,前回取り上げた高線量地域の発ガン率のデータから否定されています。すなわち,放射線被爆による損傷と回復効果が相殺する間は,放射線による影響は発ガンという形では有意に現れないと結論づけてよいと思われます。ただそれがどのくらいか。これには慎重な検討が必要ですが。

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