世界最高のX線光源を目指すLCLS2

 

可視領域の高輝度コヒレント光としてレーザー光は理想的であり、半導体レーザーによってレーザーを使う光学機器は科学機器のみでなくDVDプレイヤーやプリンターなど民生品として身近に溢れるようになった。

レーザー発振では、キャビティの中に設置された媒質を励起して両端に置かれた2枚の反射鏡で反射され波長がキャビティ長さの整数分の一となる定常波を外部に取り出す。同様にX線領域でコヒーレントX線を取り出すには自由電子と電磁場の相互作用を使うX線領域の自由電子レーザー(XFEL)となる。

 

Growth-Spurt-X-ray-Lasers

Credit: LCLS

 

XFEL

磁石列(アンジュレータ)をキャビテイとして使えば放射光の波長間隔の磁石列により自由電子の放射光がコヒーレント光になる。実際にはキャビテイ中の電子パケットが波長間隔に並ぶことによってコヒーレントX線ビーム(パルス)を取り出す。この機構を自己増幅自発放射(Self-Amplified Spontaneous Emission: SASE)と呼ぶ。現在、世界のXFEL施設はSASE方式であるが、安定性など欠点もあり別の方式も検討されている。

slide 27

Source: slideplayer

実際にSASE原理でXFELを作るには電子銃と直線加速器にアンジュレーターを組み合わせた下図のような装置を用いる。装置といってもレーザーのようなコンパクトなものではなく加速とアンジュレーターの長さがEuropean XFELで3.4kmにも達する施設となる。(注1)下図で電子銃から放出された電子のバンチは直線加速器で光速近く加速され磁石列により蛇行を繰り返しながらアンジュレーター中を移動する。アンジュレーター光は指向性の良い放射光を進行方向に向かって放射するが、自由電子と相互作用して位相が揃って行き、コヒーレントX線パルスが取り出される。役目を終えた電子はキャプチャされるので常に新しい電子バンチの光を使うことになる。(注2)

 

(注1)SACLA(Spring-8)では磁石列の周期を短くしてCバンド直線加速器を400m、アンジュレーターを240mに納めたコンパクトな設計になっている。

(注2)蓄積リング中の電子は周回しており、バンチから発射される放射光は何度も周回する「使い回し」なので、安定性は「使い捨て」のXFELより、遥かに高い。XFEL実験では前後するパルスの強度が異なるので、ワンショットで実験を終えるか、ビーム強度を正確にモニターする必要がある。

 

LCLS

XFELの先陣を切ったのはスタンフォード大SLAC(注3)のLCLSである。LCLSは、しばらくは独占状態のコヒーレントX線光源であったが、やがて性能(短波長の限界と輝度)で日本のSACLAに奪われた。現在はそのSACLAを上回る性能のEuropean XFELがドイツのハンブルグにあるDESYに建設中である。一方老舗であるLCLSはその後継機となるLCLS2でより高速な時間分解能の超高輝度光源となり2020年以降、再びX線レーザー科学の頂点に君臨することになる。

(注3)SLACの目玉はハイウエイをまたぐ世界最長(3km)の直線加速器である。LCLやLCLS2はこの直線加速器のトンネルを使って建設された。

 

LCLSは世界初のXFELで超高輝度のX線パルスで微小結晶の回折パターンをワンパルスで測定する技術など、XFEL施設と実験の基礎を築いた施設で世界中の研究者がLCLSに集結して原子・分子の動きを観察し化学反応の機構を解析など時間領域の放射光科学の先端的な研究が続出した。その後日本のSACLAが短波長限界を更新した。LCLS代表的な成果としては下に示した実験系の開発が有名で、脂質立方晶の微小結晶資料のX線回折をフェムト秒で計測できることが示された(Nature Protocols 9, 2123 (2014))。

 

nprot.2014.141-F1

Image: nature protocols

下の図でaは120x10x5μmのSMO/シクロパミン結晶(注4)の光学顕微鏡像、bは偏向顕微鏡像、c、dはシングルドメイン像、eはワンパルスX線回折像、fはSMO/シクロパミンの構造を示す。

(注4)SMOはSmoothenedの略。膜タンパク質で情報伝達に関与しシクロパミンはリガンド。

 

nprot.2014.141-F8

Image: nature protocols

 

LCLS2

LCLS2はLCLSを10億ドル(日本円で約1,200億円)の巨費を投入してアップグレードされる。アップグレードによってレーザーが追加されX線パルスの輝度は4桁向上し、世界最高輝度になる。LCLS2の稼動でより微小な領域が高分解能で観察可能になる。複数のビームラインにビームを供給するLCLS2は大電力化となるため超伝導加速空洞が用いられる。

 

lcls II layout 5 2014 v3 904wide

Image: SLAC

LCLS2の主な研究領域は次の5項目となる。これらは高時間分解能で原子・分子の動きを可視化することで可能になる部分が多い。先端技術の能力で観察の対象が決まるので、高輝度化、短パルス化で時間分解能が改善されればそれだけ対象が広がり時間情報量が増大する。

1. 材料プロセスの電子レベルでの理解

2. 新物質の効率的な設計

3. 複雑系の物性解明と制御

4. 生体模倣システムの創生

5. 非平衡状態の理解

 

狙うのは高輝度・高速パルスビームの応用で開かれる新しい電子物理、医療・薬学、エネルギーなど重要な課題を持つ主要科学技術分野の新発見・新展開。2020年のLCLS2完成前の2018年にLCLCは引退し、LCLC2に超高輝度光源のミッションが引き継がれる。

LCLSによって原子・分子の動きを動画のように調べたり、超高速の原子の動きを観察することが可能になったが、LCLS2ではさらに対象となる試料濃度や結晶寸法、時間分解能などの限界が破られることになる。

4桁の輝度増強のためパルスの周波数は100万パルス/秒という超高速パルスが必要となり、その実現には超伝導空洞による加速器技術が必要となる。この技術は世界最大の円形加速器LHCやその次世代加速器ILCでも根幹をなす技術で、素粒子物理とXFELに共通する課題となる。そのため素粒子実験の加速器設計チームはEuropeanXFELやLCLC2の設計チームと密接な研究協力体制にある。

LCLSはそれぞれSLACトンネルの1/3の長さで一部が並行して建設されるために、LCLS2の完成近くまでLCLSを利用することができる。通常は加速器の建設期間に実験できない空白期間が生じるが、LCLSが稼動し続けるためにそのような心配はない。LCLSは120パルス/秒であるがLCLS2は超伝導加速空洞を用いパルスレートが4桁増大し100万パルス/秒になる。LCSL2の建設にはSLACを中心にアルゴンヌ国立研究所、バークレー、フェルミ国立研究所、ジェファーソン研究所の4研究所とコーネル大学が参加している。逆に言えばそれだけ開発が難しいということになが、その恩恵は計り知れない。

 

加速器科学のパラドックス

XFELが先端性能(輝度と時間分解能)を狙うのは素粒子衝突型加速器がエネルギーフロンテイアを目指すのと同じで新しい展開が即開けるからであるが、一方では先鋭的になればなるほど建設コストは増大し財政負担が増える。一方で使いこなす研究者の数は減少していく。

このパラドックスを抜本的に解決するのは加速器をミニチュア化してテーブルトップXFELを作るしかないため、スタンンフォード大研究チームは加速器のミニチュア化に取り組んでいる。近い将来、半導体レーザーのように小型のXFEL光源が登場すれば、問題は一気に解決する。そこまで加速器研究者は責任を負うべきだろう。国民にもそうすれば1000億円規模の税金投入に納得する。

 

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