2Dカルコゲナイドでトリオン検証に成功したMAESTRO

単原子層の作る2D面の特異な物性を解明を目指して、ALS放射光MAESTRO実験で2Dカルコゲナイド(WS2)の電子状態が詳しく調べられた。MAESTROとはMicroscopic and Electronic Structure Observatoryの略で、ARPES計測系を中心としたALSのビームラインに設置されている。MAESTROとは交響楽団の指揮者のことであり。このビームラインでは複数の楽器に見立てた計測系を組み合わせて得られる、多角的な情報をシンフォニーに例えたのだろう。

 

MAESTROにはナノプローブARPES(50nm)とマイクロプローブARPES(10μm)にPEEM(30nm)と分子線やレーザーパルスによる試料成長システムが付属している。なお第4世代光源ではナノプローブとマイクロプローブの両方の軟X線ビームを利用するARPESが建設される傾向にあり、同様のシステムは建設中のSiriusでも計画されている。Siriunのナノプローブビームラインも含めると、このあたりのビーム径が第4世代光源のハイエンド基準となるようだ。

 

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Credit: MAESTRO@ALS

MAESTROでは単原子層2D超薄膜を成長させて、その場でARPESにより電子状態を調べることができるため。スピントロニクス材料の開発に威力を発揮する。MAESTRO実験で2D-WS2の電子状態がトリオン(注1)で説明できることが明らかにされた(Katoch et al., Nature Phys. online Jan. 22, 2018)。

(注1)2個の電子と1個の正孔で形成される複合励起子。残留電子密度が小さい半導体量子井戸において、光励起下の安定な束縛状態で高速光通信の応用への展開が期待されている。

多体励起子であるトリオンの実験的な観測は初めてのもので、多体効果の観測を目的として設計され2016年に公開されたMAESTROの威力が確認された結果となった。オハイオ大学の研究チームはMAESTROで2D-WS2の2次元面に固有な電子状態の精密観測を行った(下図参照)。

 

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Credit: Nature Phys.

 

またドーピングで電子密度が増大するとバンドギャップが増大することがわかった(下図)。今後、薄膜材料を成長させたその場で高フラックスマイクロビームによるARPESとナノプローブのPEEM、ARPESを組み合わせることが第4世代光源ではさらに普及すると思われる。

 

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Credit: Nature Phys.

 

これらの実験では軟X線領域の高輝度ビームが必要となることが3GeV放射光の必要性のひとつであった。しかし ALSは1.9GeV光源でありアップグレード後も1.9GeVのままである。このことは2GeV以下の軟X線光源でも硬いX線領域を超伝導磁石(Superbend)で増強する戦略の妥当性を如実に示している。

つまり軟X線を中心に考えるなら3GeVである必要性もない、ことになる。エネルギーを低くして運転維持コストを節約して、MAESTROのように測定器系を充実させるのも選択肢に入れるべきなのではないだろうか。ALSのこうした戦略はSiriusに継承されている。

放射光源のように急速に進化し続ける領域にあっては何かに固執し続けることのリスクが高い。ALS流の運転時間を削らなければならないほど高い維持コストのリングより、実をとるという戦略を見直すべきなのかもしれない。

 

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