超低温中性子源TRIGAのアップグレード

超低温中性子(超冷中性子)とは運動エネルギーの低い中性子のことで、極低温・強磁場中で閉じ込めができる。自由中性子の寿命は15分と考えられているが、実はもっと高い精度で寿命を決定する必要がある。

 

マインツ大学の超低温中性子発生源TRIGAが稼働してから10年後にアップグレードされた。TRIGAでは熱中性子を固体重水素に衝突させて運動エネルギーを奪い、秒速5m程度の超低温中性子とする。中性子の運動エネルギーがここまで落ち込むと、自由中性子を磁場閉じ込めで実験に用いることが可能になる。

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Credit: TRIGA

 

中性子の物理量精密測定がなぜ重要かというと、ビッグバン後の宇宙創世期の解明につながるからである。物質と反物質が生成と消滅を繰り返したが、物質と反物質の均衡が破られ、物質のみで宇宙が満たされることとなり、中性子、陽子そして電子から元素を作られた。その物質と反物質の均衡を破ったのは中性子の電気双極子だと考えられている。自由中性子の電気双極子モーメントの精密測定はビッグバン以降の宇宙創生と物質創成の解明に重要な鍵となる。 

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Cedit: KEK

 

閉じ込められた自由中性子を用いれば、その寿命、電気双極子モーメント、微小な電荷などの精密測定が可能となるが、それには閉じ込められた超低温中性子の密度が鍵となる。TRIGA原子炉を5分毎のパルスモードで運転する。発生源から取り出された熱中性子を重水素塊に照射して減速したあと、超定温中性子束は電解研磨されたSUSダクトを通って、32リットルのSUS容器に封入される(下図)。 

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Credit: TRIGA Mainz

 

研究チームが得た稼働開始時の3.5倍に当たる超低温中性子束は8.5/cm3となる(Kahenberg et al., The Eur. Phys. Journnal A online Nov. 28, 2017))。日本でも大阪大学を中心とする研究グループがKEKの陽子ビーム加速器で2003年に1.2Kで20,000個以上の超低温中性子の発生に成功している。また研究用原子炉はパイオニアであるKURがあり、原子力機構のJRR-3MにJCNSが設置されている。またカナダのTRIUMFで精力的に研究が行われている。TRIUMFは2017年にパルスあたり50,000個の超低温中性子の捕獲に成功している。

 

もちろん超低温中性子源の目的が自由中性子の基礎物理量精密計測だけにあるならば世界各国が同じようなスペックの施設をつくる必要もない。その利用研究はビームを引き出して中性子散乱実験のほか、生物試料の溶液での実時間観察や材料の欠陥、医学応用など広範囲にわたる。実験炉の建設・維持コストがネックとなっていた超低温中性子源の世界にも、加速器利用の中性子源による経済性に優れた施設の建設が可能になってきた。今後、円形加速器による新型中性子源の建設の機運が高まる中で、超低温中性子の応用研究が普及していくと考えられる。

 

 

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