第4世代光源の潮流と日本の放射光の未来

筆者は昨年末に第4世代光源の会議(Workshop on Coherent Light Source and Sciences)に出席した。すでにお伝えしたように(コヒレント光源とサイエンスに関するWS〜第4世代光源の新たな基準とは)会議の中心はいち早く新しい磁石配列(MBAラテイス)で、低エミッタンス第4世代光源の発端となったMAXIVとそれに続く第4世代第2号マシンとなるブラジルのSIRIUS、そしてMBAラテイス発展形でさらに高性能化をめざす第3.5世代光源、SOLEIL、Diamond、SLSである。

 

世界を見渡すと第3世代光源のESRF、APS、SPring-8が続々と第4世代にアップグレードする。中にはアップグレードと言っても新規のリングを建設する場合もある。またSIRIUSの手本となった1.9GeVのALS、これから中国に建設される2.4GeVのHALSと6GeVのHEPS(旧BAPS)も登場する。これらの光源は100pmrad近辺あるいはそれ以下の低エミッタンスで光源性能(コヒレントフラックスとラウンドビーム)の高度化を目指している。

欧米ではLHC、LIGO、ELIなど大型施設の建設が進む中で、それらの成果(科学技術論文アウトプット)を評価する動きも活発化している。下の図はDiamondの例でアウトプットが前身の第2世代直積リングSRS(Daresbury)と比較してある。DiamondのアウトプットをSRSのプロットに重ねてある。この図から第3世代光源への移行でアウトプットが飛躍的に向上した事が明らかであるが、それ以上に重要なことは増加率が大きい事である。すなわち光源性能と運用形態が組み合わされば、先端の研究者が集まり共同利用のアウトプットが急激にに増えることを示している。 

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Credit: voxeu.org

 

第4世代光源会議では、とある施設のサイエンスデイレクターが世界の第3世代および3.5世代光源のサイエンスアウトプットを比較した。SOLEILやDiamondなど3GeV光源が6GeVクラス光源に遜色無いアウトプットを出していることを強調したいための比較である。過去5年間のIFが9以上の論文数を比較したという1枚のスライドは筆者にとって衝撃的なものであった。以下が記憶を頼りにそのスライドを再現してみた。5年間の年ごとの論文数をプロットしてある。

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Note: 筆者の記憶にしたがって再現を試みた模式的な図で、オリジナル図と異なる。

 

高IF論文で先端科学アウトプットを表現することには異論もある。この図がどれだけ正しい指標となるかは疑問だが、欧米ではこのような評価がなされていることも現実なのである。サイエンスデイレクターの立場では光源の建設費に見合ったアウトプットをアピールする立場にあるだろうが、3GeV光源施設間の競争は我々の想像を越えた熾烈なものだという事がよくわかった。

上図のスケールは厳密で無いことをお断りした上で、気になる点をまとめてみる。まずESRFのアウトプットが圧倒的に大きく、また増加率が高いことが注目される。6GeV光源としておおざっぱに見るとSPring-8はESRFの半分、という印象だった。それでも構造解析件数(注1)でほかの施設を大きく引き離しているAPSより成果を出しているのは立派だ。日本を代表するX線光源として健闘している事は頼もしいが、気になるのはアウトプットの変化の飽和傾向である。この図をみて最初、筆者は衝撃を受けたが、放射光の国際競争の現実を受け入れざるを得ないと思うようになった。

(注1)放射光による構造解析の進歩については下記を参照されたい。

Owen et al., Current advances in synchrotron radiation instrumentation for MX experiments, Archives of Biochemistry and Biophysics, 602, 21, 2016.

 

確かに第3.5世代3GeV光源は(高IF論文数を先端科学アウトプットと見なせば)第3世代6GeV光源と同等であることはこの図からみて取れる。一方でもう1点気になったのはLCLSのアウトプットが意外に低いこと、そしてSACLAが実力を発揮した結果とは思えない結果となっていることである。成果公表や統計の取り方の問題ならしかたないが、そうでなければ深刻な問題だ。先端ユーザーが使いやすいように運営形態を工夫するなど何らかの改善が必要かもしれない。

例に選んだDiamondは企業経営を放射光施設に持ちこんだ独特な運営形態に特徴がある(Diamond Ltd.にみる新時代の放射光運営)。そのため研究アウトプットのアピールに余念がない。たとえば「Diamondが研究成果をあげている証拠」という論文はそのことをよく表している。ほかの施設でここまでやるところはないだろう。

Helmers et al., My precious! The location and diffusion of scientific research: evidence from the Synchrotron Diamond Light Source, The Economic Journal 127, 2006, 2017.

 

またDiamondにはEvidenceという表現が多いが、アウトプットを出すことは「企業責任」と考えて、その証拠を公表する努力をしているのだろう。すべての施設がこうあるべきだとは思わないが、責任をもたせるかわりに、運営方針に外部が口出ししない、という自由な運営を保証されていることはアウトプットの極端な増加にプラスになっているのかもしれない。

日本はというと3GeV放射光の建設は閉ざされたままである。日本の放射光はしかし成長期に多様化・地域分散を遂げて独特の棲み分け文化を生み出した。2020年代には第4世代光源がどのような形で実現するのか、現時点では推測すらできないが加速器の進展の速さを考えれば、現時点で第4世代光源の最高とされるSOLEIL2の72pmradエミッタンスラウンドビームを超えるスペックとなると期待したい。筆者はSLiT-JやKEK-LSの光源スペックを物足りないと表現したのはそのためである。またSPring-8IIは周長で有利なはずで、本来ならコヒレント光源候補の最先端にいてもおかしくない。下図はSLS-2で予定されているビームプロファイルで、SLS-2RBがラウンドビーム化後。光学系で100nmクラスのナノプローブも可能になる。

 

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Credit: Andrea Streun (PSI) 

 

もちろんSLiT-Jは産業利用を考慮して使い易い光源とする設計方針としたとすれば、第4世代光源の先端にある必要はないのだろう。しかしKEK-LSもSPring-8IIも日本の放射光コミュニテイを支える代表的な光源であるから、光源への要求は先端的なスペックにならざるを得ない。使いやすさと先端性は相反する要求だとしても、高エネルギー加速器や大強度レーザー施設などの大型研究施設の評価が厳しくなった現在では、先端性の追求が性能とアウトプットの両面でSOLEIL2の72pmradを凌ぐ性能となることを期待したい。多様性と棲み分けは日本独自の行き方だが、近い将来は集積・統合は避けられない。全国をどのような施設でカバーし総合したアウトプットを最大にする最適化が必要な時期が近づいているのかもしれない。

 

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