中国の大強度中性子源CSNS

筆者はすでに何度か中国の科学技術が(かつての日本を彷彿とさせる)力強さで、先進国を追い上げていることを強調してきた。加速器分野だけではない。粗悪な製品やコピー文化イメージの強い中国だが、今や世界最高性能の施設の多くを中国が手がけている事実をそろそろ素直に認めるべきだろう。

 

ここでは最近、中国が力を入れている大強度中性子源について紹介する(Cyranosky, Nature 551, 284, 2017)。大強度中性子源を有する国は限られているが、中国がまもなく仲間入りを果たす。中国が建設しているのはCSNS(Chinese Spallation Neutron Source)と呼ぶ広東省東莞市に3.31億ドル(約4,000億円)で建設した施設である。中国の研究施設は先端施設に比べれば見劣りすると考えは少なくとも最近の加速器では成り立たないようだ。例えば上海の放射光SSRFの入射器の加速菅の溶接技術には目を見張るものがあり、完成が近いブラジルの第4世代放射光Siriusはそのまま購入するほど完成度は高い。

 

下図は典型的な核破砕中性子発生のメカニズム 

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Credit: irfu.cea.fr

 

CSNSは中性子ビームの物質科学から医療分野まで幅広い応用を目的とした施設で、科学技術立国を目指す中国を象徴する加速器施設となる。CSNSのSpallation Neutron Source(核破砕中性子源は、加速器でつくられる高エネルギー粒子を原子核に衝突させて、大量の中性子を発生させる核破砕反応に基づく中性子源である。原子炉と比較して安全性が高くコストも安いため、近年、核破砕中性子源大強度中性子線源として、英国、米国、日本、スイスに建設され、スエーデンでも建設が始まっている。

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Credit: cri.cn

 

中性子ビーム強度(フラックス)で比べればCSNSは他の施設に見劣りするものの、アップグレードも含めれば先端レベルに並ぶ。将来の中性子研究を5施設が牽引することになるが、その一角を中国が担う。CSNSはビームライン20本を備え、各々が異なる実験の専用ステーションが設置される。CSNS最初のビームラインは2017年11月に中性子ビームが得られ、2018年1月からスキルミオンを対象とした実験が予定されている。下表はPhase I, IIの整備内容。

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Credit: aappsbulletin 

CSNSは躍進に翳りの見えてきた中国の国威掲揚とともに、これまで外国に行かなければできなかった中性子実験が国内でできるようになることで、海外流出を止める狙いもある。また逆にこれまで中国の大規模施設が国内の研究者向けであったが、CSNSは国際共同研究を受け入れることで、開かれた中国を目指すきっかけになると期待されている。

中性子実験は水素を燃料とする燃料電池や磁気メモリの研究開発で能力を発揮するが現場には課題も残る。しかしCSNSの設置場所がインフラ整備では遅れている。先端研究の研究者が居住する環境が整備されていないため、研究者への魅力に疑問の声もあがっている。実際、20本のビームラインで整備されたのは3本にとどまる。しかし辺境といえども東莞市は世界の半導体産業の中心で中国4大都市の一つである深セン市に近いことから、財政的に余裕のある深セン市が資金を提供して新しく2本のビームラインが建設される。

 

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Credit: aappsbulletin

 

先行している世界の大強度中性子線源は、これまで強度世界一を目指して激しい国際競争が展開されてきたが、各種応用研究にはそれぞれ適切な強度領域が存在するため、ハーモニックトロンなど円形加速器による実用的な中性子源施設の提案も出てきたことで、中性子施設も強度の先端にたつフラッックス・フロンテイア一辺倒から多様化していく傾向が見られる。これは我が国の放射光施設が大型施設に集中せずに、地域型・中少蓄積リングが棲み分けて研究を身近なものとして、定着した過程に似ているととれなくもない。3GeV放射光で遅れをとった印象だが、日本型の加速器展開は多様性に特徴があるとはいえないだろうか。

 

 

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