LCLS+LCLS-IIが先端加速技術で挑むXFEL先端サイエンス

SLACは複数回のアップグレードを受けたものの老朽化を隠せない放射光リングSPEARIIIを更新せず、2つのプロジェクトに将来を託している。ひとつは回折光源を目指すPEP-X(加速器の再利用は究極光源(USR)への近道か〜PEP-X)とここで再度、紹介する自由電子X線レーザーLCLSとLCLS-II(世界最高のX線光源を目指すLCLS2)である。

 

LCLSの強みは近郊の大学(UCバークレイ、スタンフォード)や研究施設(バークレイ研、HPなどシリコンバレーの企業研究所)の研究者が施設の設計から建設、共同利用研究に積極的に参画する体制にある。欧州からの研究者の参加も多く必然的に世界の先端的な研究者がここに集まる。実際、期待を裏切らない成果は枚挙のいとまがないほどだ。世界にはX線自由電子レーザーにはLCLSの他にFLASH、SACLA、European XFELがあるが、過去5年間の高IF論文数で見ればLCLSは圧倒的な強みを誇る。研究上はライバルであるはずのDESYやEuropean XFELの研究者も頻繁にLCLSと行き来してLCLSで先行実験をし、その情報をSLAC周辺の加速器研究者と共有している。SLACの加速器研究者はそのため常に先端XFELサイエンスに近い環境にいる。このことが新しい加速器技術が切り開く先端的な成果に繋がっているのではないだろうか。

そのLCLSが次のマシンLCLS-IIを加えたX線自由電子レーザー拠点となる。これらのマシンの目的の一つはフェムト秒以下の時間分解能での実時間観察にある。すでにレーザーを用いた軟X線光源による数100アト秒スケールの時間分解実験が報告されている(アト秒領域の時間分解光電子分光で発見された光電効果の新現象)(注1)。

(注1)アト秒スケールの世界最短パルスは43アト秒(Gaomnitz et al., OSA Publishing 25, 27506, 2017)

 

アト秒を狙う3番目の手法はXLEAP(X-ray Laser-Enhanced Attosecond Pulses)と呼ばれるものである。XLEAPではアンジュレーター中で電子バンチは赤外レーザー光と相互作用して、スライシングされる。現在はLCLSを使った試験が行われているXLEAPでは500アト秒の軟X線パルスが得られる。LEAPは韓国のPALANLのグループが精力的な研究を行なっている。

 

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Credit: Kumer et al.

 

これまではポンプ・プローブ実験で時間分解計測が行われてきたが、ポンプ光の励起によって開始する反応以外は使えない。時間分解能を上げるには短パルスが求められる一方で、LCLSでのパルス間隔の制限でポンプ・プローブ実験は8ミリ秒以下で終了する遅い反応に限られる。一方、LCLS-IIではパルス間隔が短くなり、マイクロ秒に最大時間スケールが縮められる。つまりLCLS-IIでは時間分解能をアト秒スケールでかつマイクロ秒以下の早い反応が実時間観測できるようになる。

ポンプ・プローブX線実験のためのマルチパルス化は様々な手法で試みられている。各手法の詳細は文献を参照していただくことにして、ここでは原理の模式図を紹介するにとどめる。

スプリットアンジュレータ(Split-undulator) (Ferrari et al., Nature Comm.7, 10343, 2016

 

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Credit: Nature Comm.

 

Twin-bunch(Marangos et al., New Science Opportunitieswith Free Electron Lasers (FEL))

 

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Credit: slideplayer

 

フレッシュ・スライス(Fresh-slice)(Lutman et al., Nature Photonics, 10, 745, 2016)

 

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Credit: Nature Photonics

 

Two-bucket (Neppl et al., Faraday Discussions 171, 2014)

 

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Credit: Faraday Discussions

 

こうしたマルチパルス化の手法のほとんどに何らかの形でSLAC(LCLS)と周辺のバークレー研の加速器研究者が寄与していることからも、SLAC(LCLS)が世界の自由電子X線レーザーに代表される第4世代光源の時間分解研究の中心に位置していることは間違いない。ポンプ・プローブのポンプ光タイミングは時間遅れなし(同時測定で時間軸ゼロを測定)から数フェムト秒の遅延、そしてパルス間隔100ナノ秒までの幅広い時間領域の測定が可能なのはSLAC(LCLS)の強みとなっている。

中でも最近のフレッシュスライス法によるマルチカラー・ポンプ・プローブ分光(Ferrari et al., Nature Comm.7, 10343, 2016)では、単バンチの先頭、中心、後端の3つをアンジュレーターの異なる場所の発光に用いることによってマルチ波長パルス間隔を遅延させたり、波長や偏光を摂動させることが可能となった。

マルチカラーパルスによって物質の原子配列や分子の電子状態及び機能の詳細に迫ることができるため、新薬開発や蛋白質の研究に重要なツールとなると期待されている。またフレッシュスライス法で超短波長X線パルス発生に応用する試みも研究されている。これまでは2-3パルスに限られていたマルチカラーパルスは最高8パルスまでが実験的に発生されている。将来は、さらに多くのマルチカラー化が可能となるとみられる。下図はアンジュレータによる2カラーポンプ・プローブ分光のポンプ光とプローブ光の波長分布aとアンジュレータ変調ギャップb((Ferrari et al., Nature Comm.7, 10343, 2016))。

 

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Credit: Nature Comm.

 

これらの加速器新技術をフルに使い効率的にLCLSを運用することがSLACの優先課題として検討されている。加速器チームによれば、それにはLCLSの電磁石のチューニングを自動化して最適化を迅速化することが有効とされる。LCLS-IIはLCLSのアップグレードではなく独立した自由電子レーザーなのでLCLSとLCLS-IIを並行して運用するSLACは世界の5施設の中でも抜きん出ており、今後も優位性を維持するものと考えられている。

もちろんこれらの加速器技術を一つの施設のみで実現することは不可能である。日本では施設間の壁が高く競争意識が高いのでなかなか施設の垣根を越えて研究協力を進めることは困難であったが、LCLS+LCLS-IIの強みはこれがうまく機能している所にある。加速器研究者は新しいアイデアを持っていても、出口(サイエンス)とユーザーが見えて来なければ、提案できない。SLACとバークレイでは加速器研究者と先端ユーザー(多くはビームラインサイエンテイスト)は、同じ土俵で議論し合う独特の文化に驚いた。日本ではありえない環境だからである。

 

サイエンス発表の場にまた加速器研究者が入り込んできて、鋭い質問を浴びせられる。ここでムッとしてはならない。加速器研究者はその先のサイエンスに結びつく加速器技術のヒントを得るために会場に紛れ込んでいるのである。こうしたお互いの領域を行き来する議論が新しい方法論に結びつき、施設長が予算を申請する頃には基本的な設計が済んでいるスピード感は恐ろしいくらいだ。(ついでに言うと先端サイエンスの会議に役所の担当者が会議参加者として紛れ込んでいることは珍しくない。)

加速器研究者同士と加速器研究者とユーザーの間の障壁を低くすれば、今の何倍かの成果が生まれるのではないかと思う。加速器(光源)ができたら使おうという受け身の姿勢では、SLAC周辺の研究を追い越すのは難しそうだが、ちょっとした体制の改良(例えば研究所を越えた開発体制やビームラインサイエンテイストの処遇)で流れを変えられるかもしれない。

SLACがSPEARIIIの更新を優先しないのはLCLS+LCLS-IIで世界の先端に立ち続けることを優先したからなのだろう。

 

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