GAMBITが超対称性素粒子のエネルギーを予測

GAMBITとはGlobal and Modular Beyond-Standard-Modelの略。超対称性理論で挑む標準模型を越える素粒子物理の描像を目指す理論予測コードをさす。暗黒物質や物質と反物質の間の対称性の欠如など、残された重要課題をこのツールで予測し、世界最大の加速器LHCで検証可能かどうかが注目される。

 

GAMBITによるLHCによって蓄積された実験データの解析結果が公表された(GAMBIT Collaboration, European Phys. J. C, online Dec. 2017)。下のイメージはATLAS検出器で計測されたアップクオークのデータ。

 

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Credit: CERN

 

素粒子理論に携わる研究者の多くはこれまでの実験結果をよく説明できる標準理論に綻びが目立ち始め、いずれは拡張しなければならないと認識している。必要性を強く感じてこうした動きのきっかけは、ポーランドの天文学者が1859年に天体の動きを精密に解析して、銀河系の回転運動を発見したことであった。

この後1933年にスイスの天文学者がかみのけ座銀河団を中心にして、あたかも巨大な質量を持つ「見えない物質(暗黒物質)」が存在するかのように、銀河が回転していること発見した。この発見からおよそ1世紀の間、暗黒物質についての知見はおろか、その存在の証拠すら得ることはできなかった。一方、理論物理学者は、暗黒物質の候補となる新しい素粒子を包含するように標準模型を拡張しようとしてきた。超対称性理論もその一つである。

 

新素粒子は質量が大きくこれまで知られている素粒子との相互作用が弱いと考えられるが、実験物理でその新奇素粒子を衝突実験で検証することはできるのんだろうか。これまで予想される新奇素粒子の手がかりをつかもうとして多くの実験が行われた。

 

GAMBITの狙いは種類の異なる複数の実験データを共通コードで解析し、新理論の予測と比較して標準理論を拡張に役立てることである。実験が新理論の予測に整合しなければ、その理論を捨て去ることを繰り返すことによって、次第に新理論の精度が高くなり最後には標準理論を修正することができる、という逐次改良の手法に期待がかかる。

2012年にメルボルンで開催された高エネルギー物理国際会議をきっかけに、30以上の研究所の実験物理研究者が参加して、共通解析ツール(計算機コード)を開発するGAMBIT計画がスタートした。

当初は超対称性理論モデルを5、6、7次元のCMSSM、NUHM1、NUHM2に絞り込んだが、標準理論のパラメーターの不確定性も大きいため取り扱う次元数(パラメーター数)が増えて、計算機負荷が大きく計算にはポーランドが開発した2.399ペタフロップスのスパコン、プロメテウス(下の写真)が計算に使用された。しかしこの計算能力でもGAMBIT計算には9,100年かかる。というのもLHCの各検出器生データは公開されているが、検出器の補正には膨大な計算時間がかかるからである。

 

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Credit: GAMBIT

 

これまでのGAMBIT計算結果は超対称性を持つ新奇素粒子が実在すると質量が数TeVとなり、現在のLHCの最大加速エネルギーを超えると予測された。しかし幸運なことに超対称性を持つ素粒子にも1TeV以下の質量のものも予測され、その中でマヨナラ粒子であるニュートラリーノのみがLHCで検証できる。この結果はGAMBITに期待をかけていた多くの実験物理研究者には衝撃的な予測である。ニュートラリーノ発見の希望がLHCに託されたとともに、後継機となるFCCでエネルギーフロンテイアを目指す意義がはっきりしたことにもなる。

 

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Credit: newscientist

 

GAMBITの予測によれば、衝突型加速器にとってエネルギーフロンテイアに立つことの意義は変わりがないようだ。暗黒物質解明への期待がかかるが、GAMBITの結果は超対称性新奇素粒子発見にはFCCが強力なツールとなることが約束された印象がある一方で、超対称性を持つ新奇素粒子を衝突実験で実証することの限界を危惧する考えもある(Lykken & Spiropulu, Scientific America 310. 34, 2014)。

しかしGAMBITの予測で衝突実験で狙うべきエネルギーがわかれば、レーザープラズマ加速器など将来はコンパクト化が予想される加速器実験は明確な目標が定まるので、闇雲にエネルギーフロンテイアを目指す必要性はなくなったとも言える。財政的な衝突型加速器の限界、技術的な限界が無視できなくなった現在、GAMBITのような予測コードで、蓄積データを有効に利用して先を読むことが求められているのではないだろうか。

GAMBITの予測は衝撃的ではあるもののFCCにとっては願っても無い追い風となったが、同時に超対称性素粒子物理を研究する衝突実験が世界で一箇所に限られることでもある。まるでGAMBITの予測を見越したかのようなFCCだ。

 

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