可能性が高まったD-B反応核融合の現実度

ITER建設計画は最終年度に近づき2018年にプラズマ点火が予定されていた。しかし米国新政権はオバマ政権と正反対に環境・エネルギー政策からインフラ・厚生へ軸足を移した結果、エネルギー省予算が縮小され、ITERへの拠出金も大幅な削減となった。この結果、ITERの構成要素の納入予定が遅れ2017-2018年度米国負担が予定通り進行する見込みが立たなくなった。

 

歴史的にITERへの米国の関与は政権によって大きく変動し一時は脱退した時期もあったことを考えれば、紆余曲折の末として予想されたリスクではあったが、最近の論文でトカマク炉におけるスケールメリットに否定的な説もあって、小型核融合炉の現実度が高くなってきたことも背景にあるようだ。

ここではこれらの動きの中で、現在の核融合の実用化について再考し、日本がどのような立場で核融合に向き合うかを最新の解説(Hora et al., Laser and Plasma Beams 35, 730, 2017)を参考にして考察してみたい。

 

エネルギー問題は2050年に90億となる人口増加と都市化でエネルギー不足になることが強調されてきた。しかし一方では化石燃料の燃焼で放出される温室効果ガスによって、気候変動と海面上昇の問題がこれに重なり、エネルギー危機は二つの側面から緊急に(あと20年以内に)対応せざるを得なくなった。 

このため欧州を中心として化石燃料の廃絶を目指した動きが活発化した。2020年を区切りとして、欧州各国では内燃機関や化石燃料販売の規制が決まっている。しかし自動車から排出量は20%であること、またEVは結局、発電の排出を含めれば、火力を使い続ける限り排出量を減速することにはならない。また送電網の整備も考慮しなければならないので、新たなエネルギー(電力)源を開発することを並行して行わなければ意味がない。

 

そこで太陽のエネルギー源である水素と他の非常に軽い核の核融合によって大規模な持続可能なエネルギーを生産する核融合研究が重要課題とならざるを得ない。核融合には重水素同位元素重水素(D)とトリチウム(T)の点火が現実的とされ、D-T核融合に関して60年間にわたり世界各国で研究が行われてきた。

 

これらの研究開発は最終段階に来ており、実用的な核融合炉の点火が近づいていると言える。トカマク方式のプラズマ閉じ込め壁の材料科学的な問題もあるがDT核融合の基本的な問題は、発生した中性子が放射性廃棄物を生成してしまう、すなわちクリーンエネルギーとならないことである。

中性子生成のない理想的なクリーン核融合は存在するのだろうか。答えはイエスで例外的に、水素(H)とホウ素同位体B11(B11)との融合で、すでにD-B11反応に関して多くの実験とシミュレーションの研究が行われている。

 

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Credit: Hora et al.

 

ここで紹介する論文Hora et al., Laser and Plasma Beams 35, 730, 2017)ではD-T反応の代わりに、H-B11融合を大出力レーザビームでどのように実現するかが説明している。研究グループは以下のプロセスを考察した。

(1)パワーおよび時間が10ペタワットおよび1ピコ秒(ps)のオーダーのレーザビームを用いたプラズマを加速する。

(2)数ナノ秒(ns)のパルス持続時間を有する第2のレーザビームによって生成される数kT磁場によるプラズマ閉じ込め。

研究グループはこれらのプロセスで生成されたアルファア粒子のアバランシェによって、現在のD-T融合と比較してH-B11が多い核融合が可能であることを見出した。

 

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Credit: Hora et al.

 

さらにトカマク方式で考えられている熱出力でタービンを回す発電でなく、出力されたα粒子を直接電気に変換することで、高効率のクリーンな発電が可能となり14ミリグラムのH-B11から300kWhのエネルギーが得られる。ペタワットレーザーが欧州や米国で実現している今日、ITERのような巨大なプラズマチェンバーが不要のレーザービームH-B核融合がクリーンエネルギー源として期待されている。すでにHB11LaserBoronFusionというレーザー核融合のスピンオフ企業が設立されている。

なおこの研究には欧州が建設を開始した大出力レーザー施設ELIの関与が大きい。対照的に日本では大阪大学の提案した大出力レーザー施設は予算がつかず将来が閉ざされたままである。科学技術予算では規模とタイミングが重要である。どちらかを逸しても致命的な損失に繋がる。エネルギー問題に正面から取り組むには現在の省庁体制には限界があるかもしれない。

 

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