価数揺動の正体はリフシッツ転移〜CHESS放射光が謎を解明

価電子の概念は原子が結合によって不変の価数を持つ物質の結合に関与する特別な電子である。結合に関わらない電子は深いエネルギー準位にスピンが逆向きのペアをつくり強く束縛されている。一方、価電子が希土類元素を含む金剛原子価と呼ばれる物質の価電子は、温度や圧力で価数が変化し、物質が特徴的な超伝導や磁性を持つため注目を集めた。

 

混合原子価物質の謎とされていたのは、温度を上げると価電子の数が減少する電子状態であった。コーネル大学の研究グループはコーネル大の放射光を用いて典型的な混合原子価結晶(YbAl3)でその謎を解明することに成功した(Chatterjee et al., Nature Comm. 8: 852, 2017)。

研究グループはMBEで成長した薄膜試料を使い、ARPESにより温度の関数として価電子を追跡し、どこに消えるのかを調べた。実験の結果、温度が上昇するとYb原子起源の電子はYb周辺の結合軌道から外れて、温度が下がるとYbに戻ってくることがわかった。

 

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Credit: Nature Comm.

フェルミ面のトポロジーを変える相転移現象は理論的にはロシアの物理学者リフシッツが提案したものであったが、混合原子価の価電子の行方を解明する理論でもあった。価数揺動によってフェルミ面のトポリジーが変化するリフシッツ転移によって、特徴的な物性が説明される。低温ではYbAl3の電子ポケットは空になり低エネルギーのYb4f状態が遍歴性を帯びる。

ニューヨーク州の北の端イサカにあるコーネル大学の放射光CHESSは大学のキャンパス内に設置されている(下図)。エネルギー省の管轄には入っていない。次期マシンとして切望されていたERL計画は予算化への道が閉ざされた経緯がある。

 

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Credit: CHESS

ビルダーバックの元で80年代にはCHESSでは先駆的なX線回折実験が行われ多くの第2世代放射光に影響を与えた。かつて狭いニューヨークのイメージが頭の中にあった筆者は車を飛ばして簡単に行けると思ったが、ニューヨーク州の北部に位置するイサカは400km以上離れていた。

 

ビルダーバックが案内してくれたCHESSの実験ホールはホームメード機器で溢れかえり、いかにも実験室らしい雰囲気であった。そのCHESSがいまでも健在で、こうした先端的研究をあげている。ビルダーバックのリーダーシップが強く根付いているのではないかと思える。コーネル大はスタンフォード同様に実業家が創立した名門私大で広大なキャンパスの地下に蓄積リングが設置されている。コーネル大のほかにイサカ大学のあるイサカは大学街として知られ、ガソリンスタンドでは東部では当たり前の給油前に「deposit」を払う慣習がここにはなかったのを覚えている。

新世代の放射光では新しい実験が可能になることは間違いないが、古くても第2世代以もできることは多いように思える。

 

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