ピンクX線ビームによるシリアル結晶構造解析

 

放射光の登場で蛋白質結晶解析は飛躍的に効率化し米国の代表的な放射光APSだけで構造解析数は、世界中の実験室X線源を用いた構造解析結果の総数を上回っている。放射光の特徴のひとつは波長分布が広いため、単波長X線でなく広いバンド幅のX線ビームを用いることができることである。

 

放射光では単色X線(ΔE/E~10-4)が用いられるのに対して、XFELではバンド幅が広い(ΔE/E~2x10-3)ためスナップショットの情報量(回折パターン)、が多い。放射光ではバンド幅が狭くブラッグ反射データを得るのに多くの試料(微小結晶)が必要となるのが問題であった。

これまではポリクロマテイックX線ビームを用いるとバックグラウンド散乱が増えるため比較的大きい試料に限られていた。DESYの研究グループはピンクX線ビーム(注1)と呼ばれるポリクロマテイックX線ビーム(を用いて、散乱X線強度を低減させる実験法を開発しAPS放射光を用いてその効果を実証した(Meens et al., Nature Comm. 8: 1281, 2017)。

 

(注1)広域波長スペクトルを持つX線ビームを白色X線と呼ぶのに対してピンクX線はバンド幅が大きい準単色X線ビームをさす。この研究ではΔE/E~2x10-3のビームでおよそ100倍のフラックスをかせぐことができた。完全結晶モノクロメーターではフラックスが犠牲になるために、結晶の不完全性を導入して強度を上げることがある。

研究グループは従来の実験レイアウトと異なる、シリアル結晶学では数100から数万個の微小結晶を対象とする。2次元検出器で得られた膨大な回折パターンが集められ、解析されて構造が抽出される。シリアル結晶学はすでにXFELの短パルスX線ビームで得られるフェムト秒〜ピコ秒スケールの時間変化をμmからnmという微小結晶に対して、追跡する実験が行われ成果を収めている。

 

研究グループはシリアル結晶学手法を放射光に応用することを考えたが、通常のX線回折では単色X線ビームを使うため、情報量が限定される。そのため研究グループはピンクX線ビームを用いて、波長帯域を広げて情報量を増やすことを試み、シリアル結晶学データを短時間の露光で得られることを実証した。

これまでしかしピンクX線を使ったシリアル結晶学手法はバックグラウンド散乱のため成功例がなかった。その散乱は試料よりもむしろ試料周辺の物質と空気による部分が多いことに気づき、空気中のビームパスを少なくしビームを金属パイプで覆うことによって、散乱X線強度を減らすことに成功した。下の図のa、b上段はピンクX線ビームによる異なる蛋白結晶の回折パターン。

 

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Credit: Nature Comm.

これによって研究グループはピンクX線を用いたシリアル結晶学手法で2個の蛋白結晶の高精度構造解析に成功した。実験はAPSの生物専用ビームラインBioCARSで行われた。実験グループのリーダーはXFELによる蛋白構造解析で世界的に有名なチャップマン教授で、DESY、ハンブルグ大学、マックスプランク研究所の研究者が参加した。下図は構造決定された蛋白フイコシアニンの分子構造の模式図。

 

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Credit: Nature Comm.

この方法での時間分解能は100ピコ秒で室温での蛋白質結晶の構造変化を追跡できるため、広く応用が進むものと期待されている(https://phys.org/news/2017-11-crystals-pink-x-ray.html)。

 

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