未来のビーム収束技術—ランダウ減衰電子レンズ

LHCの後継加速器として直線加速器型(電子−陽電子衝突)と円形加速器FCC(主に陽子−陽子衝突)が検討されているが、FCCではLHCの持つエネルギーフロンテイアを引き継ぐことになり、欧州の加速器実験の優位性を持続するため実現に向けた動きが活発化している。

 

陽子ビーム収束技術の歴史の中で荷電粒子が電子中を通り抜ける際に相互作用で実験に都合の良いビームに整形する重要なコンポーネントとなったフェルミ研究所が設計した電子レンズが有名である。なおこのレンズが用いられたテバトロン(円形加速器RHIC)はすでに引退している。

 

フェルミ研究所の研究グループは新たにランダウ減衰レンズと呼ばれる電子レンズをFCC用に開発した(Shiltsev et al., Phys. Rev. Lett. 119, 134802, 2017)。FCCは高ルミノシテイの大型円形加速器で、現在世界最大のLHCのエネルギー(13TeV)の約7倍のエネルギーを持つ。周長100kmとなるFCCでは陽子ビームのバンチ密度が高いために、それらの相関が強くバンチに詰め込まれた陽子がわずかなビーム摂動で大きく変動し最悪、行き場を失う。

(注1)ランダウ減衰とはプラズマ振動が荷電粒子にエネルギーを与えて減衰すること。リング中のビームの電流を増やしていくと,ある電流値を境に,ビー ムが水平方向や垂直方向または,到着時間やエネルギーに ついてのコヒーレントな振動を始める。このような現象は ビーム不安定性と呼ばれており,ビームとそれを取り巻く 環境とが相互作用して生じる電磁場が,ビーム自身に跳ね返って不安定にしてしまうために発生する(中村剛)。ビーム不安定性はビーム力学の解説参照。

 

陽子ビームの密度を下げてやれば良いのだが、そうするとビームが安定になるかわりルミノシテイを犠牲にすることになる。解決策としてはビーム輸送経路にある摂動因子に対してバンチに詰め込まれた陽子が同じような動きをしなければ良い。それには陽子がわずかに異なる経路で輸送されればよい。このためのビーム中心に対して非対称となるように外側の軌道を変える必要がある。

基本的なビーム不安定性の対処法は8極電磁石とビームフイードバックによるクロマテテイシテイ制御であるが、超高輝度ビームになるとこの手法だけでは十分ではなくなる。一方、低エネルギーの磁場に対して安定な電子ビーム、「電子レンズ」を用いるとランダウ減衰に十分な縦方向の非線形ビーム収束でビーム不安定性を抑えることが可能となる。また電子レンズではビーム中心で許容される周波数広がりが大きく、許容度がビーム寿命に左右されないという特徴を持つ。

 

テバトロンでは8極磁石(注2)35個が使われたが、LHCでは336個が挿入されている。同じようにするとFCCでは10,000個の8極電磁石が必要になるが、それでは8極電磁石だけで10kmの長さになり実用的ではない。下図の(a)、(b)は8極電磁石と電子レンズによるランダウ減衰に対するダイナミックアパーチュアの計算値。緑青の線が100,000ターンで荷電粒子が消失する境界を示す。チューン変動が大きい(a)に比べて電子レンズ(b)のダイナミックアパーチュアの優位性が明らかである。

数m級のの電子レンズが10,000個の8極電磁石に相当するため、FCC実現には電子レンズによるランダウ減衰が不可欠の加速器技術となった。

 

PhysRevLett.119.134802

Credit: Phys. Rev. Lett.

(注2)ランダウ減衰8極電磁石

 

なお高エネルギー加速器におけるビーム力学に関しては詳しい解説があるので興味がある読者は参考にされたい。日本ではILCでエネルギーフロンテイアを狙わず伝統的な高ルミノシテイで電子−陽電子衝突を計画しているが、LHCの成功でエネルギーフロンンテイアの意義を経験した欧州はFCC実現に向けて方向性を定めつつある。単なるスケールアップでは実現できずに、新しい加速器技術の進歩が伴うことは間違いない。加速器の新規建設は新しい技術を生み出すことと等価だとすれば、究極の加速器というものは存在しないのだろう。

 

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