X線散乱相関解析でウイルス3D構造決定〜進展する単分子構造解析

バークレイ研究所の研究グループは超高速X線散乱の角度相関によって、非晶質分子の3D構造を再構築することに成功した(Kurta et al., Phys. Rev. Lett. 119, 158102, 2017)。この研究によって非晶質の蛋白質の3D構造解析が可能になり、「生きたまま」の生体分子構造を知ることが可能になると期待されている。

 

多段反復フェージング

実験はSLACの自由電子レーザー(XFEL)LCLSの短パルスX線を使って行われ、データ解析にはバークレイ研究所が開発した多段反復フェージング(Multi-tiered iterative phasing, M-TIP)と呼ばれる情報処理アルゴリズムが用いられた。 

角度相関から3D構造を得るアイデアは40年前に提案されていたが最新の技術が使われた実験データ収集(下図)とアルゴリズムの組み合わせで初めて実現した。古くから位相問題として知られるこの問題は、散乱データに隠された位相(3D構造)を抽出することに他ならないが、数式的記述とアルゴリズム開発には最新の情報処理技術が必要だった。 

 

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Credit: Barkley Lab 

 

これまで3D構造解析は結晶に限られてきたが、生物試料で最も重要な課題は「生きたまま」構造を決定することである。超高輝度、超短パルスX線がXFELの登場で利用できるようになり、この課題が解決されつつある。単分子X線回折と呼ぶ手法では結晶の枠組みなして、個々の分子の3D構造を調べることができる。 

 単分子イメージングの技術的問題は配向決定である。X線が分子を照射しても分子は運動していて、向きが定まらない。そのため短パルスX線散乱(スナップショット)は異なる時間フレームに対応した配向情報を含んでいる。これまでの研究では配向情報をイメージから得ようとしたが、空間分解能が限定されていた。コヒレントイメージングはUCLAグループをはじめ世界中の研究者が注目する分野である。 

 

研究グループはスナップショットのフレーム・イメージから直接、3D構造を再構築することを諦め、1970年代に提案された相関解析の手法(Fluctuation x-ray scattering)とM-TIPアルゴリズムを用いた。

下図に得られた結果を示した。試料はウイルス(PR772バクテリアファージ)。 

 

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Credit: Barkley Lab 

 

この手法では散乱の角度相関から対称性の制約がない、すなわち非結晶試料の構造決定ができることに特徴がある。結局、3D構造決定は40年前の「位相問題」に帰結することとなったことは興味深い。 このアルゴリズムのもう一つの利点はこれまでの単分子構造解析がスナップショット中に1分子が存在することを前提にしていたのに対し、スナップショット中に複数の分子が存在する場合にも適用が可能である点だ。 

XFELはLCLSとSACLAが稼働中で成果を上げているが、最近これに最短波長のEuropean XFELが加わり3極体制となったが、他にも計画中の施設があり将来は生命科学の悲願であった「生きたまま」での3D構造解析がルーチンになる日が近い。 

バークレイ研究所は今回の成果が国際研究チーム体制によるところが大きいとしている。これは別の記事(科学技術に必要なのは研究者の流動性か)で取り上げたように研究者の流動性が成果に結びつくとした研究結果を裏付ける。一昔前は研究所の中に他分野の専門家を見つけることが容易で、組織内での共同研究で事足りていたが、専門化が進むと先端の研究者を組織外に見出して、共同研究体制を取れる環境づくりが不可欠となった。

これは高エネルギー物理では昔からInternational Collaborationとして実行されていたが、他分野でもようやくその価値が認識されたようだ。研究者の流動性を高めることはEUの科学技術政策でもある。しかし現実には制度が形骸化すると必要のない出張や会議などで研究者の束縛を強め、逆に研究の足を引っ張ることもあるようだ。「流動性」は「多様性」と同じように、光と影が共存するのである。

 

 

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