加速器の再利用は究極光源(USR)への近道か〜PEP-X

SPEAR3については記事(放射光の聖地はSSRLなのか〜独自の文化を持つ3GeVリング)を書いた。SPEAR3は日本のPFと並んで、世界で最も長寿を誇るX線光源の一つである。同じく古参の英国のSRS、PF、SPEAR3はいずれも高エネルギー加速器研究所に所属している。DaresburyのSRSはシャットダウンされて、新たな放射光Diamondに引き継がれたが、PFもSPEAR3も後継機の建設がの見通しが立っていない。

 

SPEAR3の独特な加速器文化

SPEAR3もPFも新光源が引き継いだSRSとは別の道を辿っているが、さすがに両者とも老朽化・陳腐化は隠しようがない。日本の3GeV放射光の建設が遅れて見通しが立っていないが、SPEAR3に新光源の建設の話が出てこないのはなぜだろうか。

その理由は当面の開発目標が自由電子レーザーLCLSの拡張計画であるLCLS2に全力投入しているからだ。LCLS2は短波長競争から外れて、使い道の多い軟X線で世界の先端に立つべく建設される新光源である。LCLS2と行っってもLSCSを廃止して置き換えるのではなく、LinacトンネルをLCLSと共有するので共存することができることが特徴だ。そうなれば硬X線の先端に立つEuropean XFELと軟X線のFLASHに対抗できる自由電子レーザー拠点として、DOEの中での位置付けがはっきりする。しかし蓄積リング型放射光を新規に建設するとなるとAPS-UとALS-Uと競合し、予算化はそれらの後回しになる。

 

特に同じ地域のALS-Uとの競合によって仮にロードマップ入りが実現できても相当先になる。またコーネルERLが道を絶たれた現在、世界の放射光源の先端(究極光源、USR)を目指すには周長の大きい蓄積リングを建設する必要があることから、SPEAR3の周囲にある衝突型円形加速器PEP(PEPII)を究極光源用に改造するPEP-X計画が浮上した。ここではSLAC加速器グループが作成した原案(注1)を紹介して、3GeV光源の先にある「究極光源」の現実度を探る。

(注1)Hettel et al., Ideas for a future PEP-X light source

 

最近のX線光源の設計では、しばしば光源性能が相補的な(現実には相反する)因子が要求される。例えば平均輝度とピーク輝度、高エネルギー分解能と短パルス長、高フラッックスとコヒレンスなどである。これらの因子の組み合わせの前者は直積リングの得意とするところで、後者が自由電子レーザーが優位となるため、蓄積リングと直線加速器型光源は相補的な光源と言える。

将来的にはERLと超伝導加速器を用いた自由電子レーザーの組み合わせで、要求される光源性能は実現されると考えられているが、それには長期の開発研究が必要で、近い将来の話ではない。遠くない将来、既存のSPEAR3の性能に飽き足らないユーザーは蓄積リング型の次期光源を要求すると考えられる。米国ではフェルミ研究所以来、加速器の再利用が多くの高エネルギー加速器で実践されて来た。実験終了したPEPIIのトンネル(2.2km)とインフラをを放射光に転用するPEP-X計画の検討が2007年から始まっている。

 

先鞭をつけたPETRAIII

欧州ではすでに高エネルギー加速器を放射光に転用したPETRAIII(異色の高輝度光源PETRAIIIの実力)の一部が稼働し、アップグレードのPETRAIVも予定されている。PEP-Xでは50-100m直線部分が挿入光源に利用できる。下図に挿入光源の輝度とフラックスの最大値をエネルギーに対してプロットした。他の光源として3-5mクラスのPETRAIII-IDとNSLSII-IDを2桁以上上回り、唯一の競合光源であったERLを除けば3.5mIDでも十分な優位性が明らかである。

 

abstract

Credit: SLAC

 

PEP-Xの光源スペック

PEP-Xは2箇所の実験建物で合計32本のビームラインが利用でき、トンネル内の加速器設備も流用することで建設コストを低くできるのがメリットとなる。PEPリンングの6箇所のDBAラテイスには4.3mの直線部分が30箇所あり、隣り合った直線部には120mの挿入光源が設置できる。残りの4箇所のTMEセルはダンピングウイグラーで低エミッタンス化に使用する。

4.5GeV運転のエミッタンス0.37nmradは2基の90mダンピングウイグラーによって、0.09nmradにまで絞り込むことができる。IBSにより3400バンチ1.5A運転で水平方向エミッタンスは0.14nmradとなるが、カプリングを減らして垂直方向のエミッタンスが8pmradまで落とすと、波長1Åで回折限界が達成できる。

IBSは低エミッタンスリングではエミッタンスを増やす厄介な現象だが、エネルギーが小さい方が効果が少ない。そのためやや低めのエネルギー(4.5GeV)でPEPリングを運転するとIBSを減らして、回折限界を硬X線の標準(1Å〜12.6keV)で実現できる。一方、ビームの寿命(Touschek lifetime )は1時間以下なのでトップオフ入射が前提となる。(マシンパラメーターを下に示す)

 

2abstract

Credit: SLAC

PEP-Xの挿入光源パラメータ及び輝度スペクトルを以下に示す。なお現在、PEP-Xはユーザーに実験テーマの提案を募集中で、ユーザー実験の具体的な実験内容が固まればパラメータは最適化され予算化のフェーズとなる。

 

abstract copy

3abstract

Credit: SLAC

 

日本でもKEKのメインリングを放射光源に転用する計画があった(KEK-X)。KEK-XもPETRAIII(IV)、PEP-Xの進展に伴い、再検討される日が来るかもしれない。少なくとも実用的な硬X線領域(<12.6keV)で回折限界を達成するには、研究開発も含めたコストを考えれば、近道なのではないだろうか。

世界的な傾向である加速器の再利用については別記事(加速器の未来は明るいのか)を参照されたい。3GeV放射光の見通しがつかない閉塞状態だが、持てる設備を使って世界の先端に立てる計画も選択肢に入れることも考えるべきかもしれない。もちろん回折限界で何ができるかをユーザーが考えて、必要性をコミュニテイがまとめる必要もある。

また当面は3GeV放射光の建設に取り組むにしても、その先に何があるかは見通しを立てて必要があるのではないだろうか。

 

 

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