アト秒領域の時間分解光電子分光で発見された光電効果の新現象

アインシュタインの光電子効果の仕事から100年以上経ったが、まだ全てが解明されたとは言えないようだ。超短パルス光照射による光電子放出では奇妙な現象が起きることがわかった。

 

スペインの研究グループは、アト秒域の超短パルス光による光電子放出では、異なる始状態からの電子放出が競争的に生じる。奇妙なことに最も高速な電子が最後に放出される(観測される)。光電子の運動は放出する原子の内部の相互作用に強い影響を受けることを見出した(Siek et al., Science 357 6357, 1274, 2017)。

 

アインシュタインの時代には超短パルス光源がなかったためこのような現象は理論に含められなかった。超短パルス光源による光電効果を説明するためには拡張理論が必要となった。ニュートリノ振動によって素粒子理論体系の見直しが必要になった状況と似ている。一般に理論は観測されている現象を記述するようにつくられるから、説明のつかない現象が観測されれば修正・拡張が行われるのが普通である。

実験的にこの遅延現象を調べるにはフェムト秒(10-15秒)の先にあるアト秒(10-18秒)領域の時間分解能(10-17秒)を持つ時間分解光電子分光が必要となる。時間分解光電子放出の実験にはWSe2が使われた。WSe2では始状態の異なる4つのチャネルで光電子が放出されるため、遅延効果を調べるのに都合が良い。

 

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Credit: Science

 

固体表面から放出される電子が原子ポテンシャルに捕獲されるため放出される時間に遅れが生じる。これらの電子は原子核の周りを運動して一定時間後に束縛を振り切り真空中に飛び出す。原子核に捕獲される時間が長い電子ほど放出が遅くなる。一方、捕獲されないで飛び出す電子ほど遅延時間が短い(下図参照)。

原子内相互作用とWSe2(半導体)中の光電子の伝搬を記述するモデルで光電子放出の時間遅延現象が解析された結果、現象の記述には電子の運動状態を取り込む必要があることがわかった。現段階ではプロセスを2段階に分けて表現しているが、一つのプロセスとして統一して記述できるように光電子放出理論を拡張していく必要がある。

 

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Credit: Science

この研究によりアト秒レーザー領域の光電子放出では束縛状態の軌道角運動量と原子核との相互作用に影響されることが明らかになった。アト秒レーザー科学はそうした光電効果の未知の領域に踏み込む事で、光電子放出の統一理論の構築が期待される。

 

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