ナノクーロン級レーザーウェークフイールド加速器

巨大な加速器建設に財政負担の陰りが見え始めた今日、画期的な解決策として加速器の小型化が模索され始めている。本コラムでは3つの手法について簡単に紹介してあるが、そのうちの一つであるレーザーウエークフイールドに進展があったのでここでその概略を紹介する。

 

巨大加速器の建設が難しくなる理由

加速器科学が現代社会に与えた影響は素粒子物理だけではない。中でも電子加速器は基礎科学のみでなく、放射光という高輝度X線源として基礎から産業応用に至る計り知れない影響を与えた。しかしエネルギーフロンテイアに立つ加速器はもちろん我が国で言えば放射光施設でさえ、加速器の大型化によって土地確保と財政の両面で時期計画を作り続けることが困難になりつつある。加速器建設が唯一、中国で好調な理由はこのためである。加速器が巨大化する理由は高エネルギー荷電粒子ビームを得る加速勾配に制限があることや、(高品質なビームを実現するため)半径を大きくして軌道をなるべく緩やかに曲げることが要求されるためである。

 

救世主となるレーザーウエークフイールド加速器

レーザーウエークフイールド加速器は最近の短パルスレーザー技術とプラズマ物理の急速な発展により、将来を担うコンパクト加速器になり得ると期待されている。ドイツ研究センターヘルムホルツ協会(HDZR)の研究グループはレーザーウエークフイールドで安定な高品質の電子ビームを加速する技術を開発した(Couperus et al., Nature Comm. 8: 487, 2017)。

レーザーウエークフイールド加速の原理はまず高強度短パルスレーザーを希薄な気体に衝突させ、荷電粒子と電子の雲(プラズマ)を発生させる。この際にレーザーパワーが大きいために電子はイオンから弾き飛ばされた後、バブル状の電場がつくられる。

 

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Credit: cerncourier

 

この電場によって電子が光速に近い速度にまで加速されることになるが、従来の加速器の長さがkmスケールでるのに比べれば、極端に短い距離で済む。加速電場勾配がきついためである。短距離で光速に近い速度にまで加速された電子に別のレーザーを衝突させれば、逆コンプトン散乱によって高エネルギーX線パルスが発生する。

一方、高輝度X線パルスを得るには一つのプロセス(レーザーの1ショット)に関わる電子数が多い必要がある。しかし電子密度が大きいとそれ自身の作る電場がレーザープラズマの電場に重ね合わされる問題(ビームローデイング効果)(注1)が生じる。

(注1)ビームが通過するときにそれが誘起する電磁場

 

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Credit: Nature Comm.

上図aはプラズマのウエークフイールドエネルギーヒストグラム、bはビームローデイング効果が電場Eに与える影響。

 

研究グループはヘリウムに窒素を僅かに混入させると、窒素の濃度で加速される電子数を制御できることを見出した。具体的には電子密度が電荷に換算して300pクーロン付近で電子のバンチが最適化される。この時のピーク電流は50kAであった。

将来的にはペタワット級のDRACOレーザーを使えば、ピーク電流が150kAの電子バンチが得られるとされる。この研究によって電子ビームローデイングの最適化の指針が得られたため、レーザーウエークフイールド加速器の研究開発は本格化すると期待されている。

(注2)小型Nd:YAGレーザー、市販されている。

 

X線源を目的としたテーブルトップ加速器については以下の記事があるので参考にされたい。

加速器新技術によるコンパクトX線光源〜その1: レーザー・ウエークフイールド

加速器新技術によるコンパクトX線源〜その2: 逆コンプトン散乱

加速器新技術によるコンパクトX線光源〜その3 : 高次高調波発生(HHG)

加速器科学の問題点

試練を迎える加速器科学

加速器の未来は明るいのか

 

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