Broad Instituteに込められたビジョンとは

最近、複数の国立研究機関が研究機構の名の下に統合されることが多い。背景には境界型研究の効率化の他に、事務(雇用も含めて)経費削減で予算の実質拡大と繰越など柔軟な使い方がメリットとされる。米国では特に境界型研究体制の必要性の高い研究領域、生命科学、を対象としてBroad Instituteが発足し、成果を上げてきている。(Broadから想起される広域研究機構の意味ではなくビジョンを提供した個人名。)ただし以下に記すようにBroadを広域ととり広域研究機構と言っても成立する面を持っている。筆者にはそちらの方がしっくりくる。

  

Broad Instituteとは

2003年に設立されたBroad Instituteは、ボストン地域の著名な生物医学研究機関、MIT、ハーバード大学とその提携病院が一体となって特定の(生命科学)研究を連携して行うことで生命科学のブレークスルーを図るのが目的である。生命科学研究においては薬剤開発研究など医師の参加が重要であり、臨床試験と基礎研究の距離を縮めることが必要となっていた。

米国の場合、大学の研究予算に寄付財団や企業(軍関係が含まれる)からの支援の占める割合が高い。バブル期には日本企業からの寄付が上位を占めていた。Broad Institute設立にはEliとEdythe Broadの連携研究の精神(ビジョン)が組織の壁を乗り越える求心力として働いた。下の研究所モニュメントにあるEliとEdythe Broadの名前が刻まれている。MITと隣り合わせのハーバード大学の地域的な連携要素は高いが、各々の組織は競争関係にあり組織の壁も相当高い。しかしBroad Instituteの設立にはEliとEdythe Broadの高い志へ共鳴した研究者自身の希望が壁を乗り越える大きな力になった。

 

Broad Institute

Credit: brevia.hcura

 

研究所のミッション

Broad Instituteのミッションは、生物学における体系的なアプローチを用いて医学を変革し、病気の理解と治療を劇的に加速することとされる。複数の組織にまたがる幅広い専門分野の科学者は、科学分野や機関を横断するさまざまなプロジェクト(以下)を推進している。

・ヒトと他の種の遺伝子とその変異の機能解明によって、ヒトゲノムプロジェクトを構築。

・体内の細胞がどのように情報を処理し、その周囲に反応するかを決定するゲノム構成要素の機能理解。

・ヒト個体群の遺伝的変異の包括的な研究により、主要な遺伝性疾患の分子的基礎を解明。

・異なる癌の基礎となる突然変異を特定し、新しい癌治療や診断ツールの開発の基礎を築く。

・効果的なワクチン、迅速な診断、および新しい種類の治療法を開発するために、主要な感染症の分子基盤の確立。

 

これらの研究項目は簡単に言えば生物科学的・医学的発見に歩調を合わせて治療法開発プロセスを変革するビジョンに沿ったものである。これまでは基礎科学が新しい治療法に結びつく分子科学的発見をしても、薬剤開発や治療法に至るには長い時間を要していた。Broad Instituteの意図は基礎研究と治療法を最短で結ぶことにある。Broad Instituteはまたサマースクールを通して若い研究者層の育成にも力を入れている。

もし日本の研究機構が形式的な「整理統合」のためのものであるとするならば、実質的な研究者の連携の必要性から自然な流れとしてできた広域研究機構とはなり得ない。研究者の連携に予算をつける仕組みは加速器科学ではInternational Collaborationという広域研究機構で実現されている。もちろんその短所もないわけではないが、予算を効果的に使うには組織に予算をつけるのは時代錯誤かもしれない。そういう意味では3GeV放射光は広域研究機構の資格がある。

 

 

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