Naバッテリーの新型正電極開発に威力を発揮する3GeV放射光NSLSII

Liイオンバッテリーはそのエネルギー密度において圧倒的な強みを持つ一方で、反応性の高いLiイオンはこれまで多くの火災事故を起こしており、Liイオンバッテリーの代替えバッテリー材料が模索されてきた。周期律表的にはNaが最も期待されるが、Naバッテリー実用化の鍵となるのは正電極材料であった。

 

中国の科学アカデミーを中心とする研究グループは、運転を開始したブルックヘブン国立研究所の3GeV放射光施設(NSLSII)と協力してNaバッテリーの生産を可能とする正電極材料の開発に成功した(J. Am. Chem. Soc. 139, 8440 (2017))。

これまでPCや携帯端末など電子機器用に生産されてきたLiイオンバッテリーがEVの急激な需要で生産が追いつかなくなった供給不足と先に触れた安全性の問題が背景にある。今年から稼働するテスラ社とパナソニックが共同出資で建設したギガファクトリーの生産量だけで、世界中のLiイオンバッテリーの総生産量を超えることからも、EV用Liイオンバッテリーの需要が急成長していることがうかがえる。実際、中国のEV市場が活気付くとLi炭酸塩の価格は急騰した。

 

日本では太陽光発電事業者は売電しか頭にないが、米国では家庭用の再生可能エネルギーの蓄電にもLiイオンバッテリーを使うため、供給不足になることは必至である。

Naイオンバッテリーは発火の恐れはないが、正極材料(金属)が空気に触れると酸化してバッテリー特性が劣化する。研究グループは金属層の原子層間の距離を最適化することで、酸化しにくい正電極材料を得ることができた。研究グループがそのための材料評価に用いたのはNSLSIIに設置されているISS(Inner Shell Spectroscopy)ビームラインである。

 

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Credit: flickr

 

ISSビームラインは材料開発を目的としてNSLSIIで最初に運用開始したX線吸収分光ビームラインで、バッッテリーの充放電サイクルの過程を実時間観察できる(オペランド観察)。ブルックヘブン研究所の研究グループはISSビームラインを用いて、O3型と呼ばれる正極金属を別の金属で置換することで酸化しない材料を見出した。

研究グループは正極材料NaNi0.5Mn0.5O2をCu/TiコードーピングしてNaNi0.45Cu0.05Mn0.4Ti0.1O2とすることで、酸化が進まないことを明らかにした。材料中のNiとMnそれぞれ少量のCuとTiで置換するだけだが、実験によっ多成分系の最適組成を決めるのに、オペランド分光が有効であることを実証することとなった。

 

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Credit: J.A.C.S.

今回の研究に使われたNSLSIIのISSビームラインは同施設の材料開発の拠点となっている。日本の3GeV放射光の建設は迷路に入って久しい。世界中で3GeV放射光が稼働しだした現在、バッテリー開発に限らず先端的材料開発の国際競争力低下が懸念される。すでに手遅れになりつつあるが何もしなければ、状況は悪化し取り残されることが怖い。

なお米国は新政権でMadein USAを目指して製造業に力を入れているがDOEは傘下にある国立研究所やプロジェクト(センター)、放射光施設を連携してエネルギー科学で先端を目指している。3GeV放射光はその大きな流れの拠点となりつつある。「何もしない」国と差が広がる一方だ。

 

 

 

 

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