LCLSのXFEL照射で分子内「ブラックホール?」状態

SLACのXFEL、LCLSは波長こそ、SACLAやEuropean XFELに及ばないがそのピークパワーは世界最大となる。そのXFELが最大パワーで分子を照射したときに何が起きるのか予測できなかったが、このほど分子に強力なパルスを照射した結果、分子内にいわばブラックホール状態が出現し、あたかも分子内の電子が吸い込まれるようにふるまうことが明らかになった(Nature 546, 129 (2017))。

 

8.3keVの短パルス(30フェムト秒)照射によって、分子を構成する一番重い原子から電子を数個残して剥ぎ取る現象がみられるはずだったが、周囲の結合している原子から電子が分まるで「ブラックホールのように」(注1)「吸い込まれた」。1発のパルスで1個の原子から50個以上の電子が叩き出されたことになる。

(注1)今回の実験はいかにも粗っぽいし、「ブラックホール」というのは少々大げさな表現で誤解を生むかもしれない。また分子軌道の概念からすると、驚くことはないと感じる人もいるだろう。もしかすると「スーパー・クーロン・エクスプロージョン」の方がしっくりくるかもしれない。ただしLCLS2の予算取りにはそのくらいインパクトが必要なのとDOE的には「エクスプロージョン」は禁句なのだろう。

このような強力なレーザー照射下で物質の挙動は実験的に調べられたことがなく新しい極限環境の物性が顔をのぞかせる。実験はLCLSのコヒーレントX線イメージング・ステーションで行われた。LCLSのXFELパルスは直径100nmのスポットに集光され、エネルギー密度を一般の実験より100倍程度に増大される。

 

Xe原子とヨウ素を含む分子の違い

照射はXe原子(電子数54)とヨウ素原子(電子数53)を持ち、電子数が53の2種類の分子に対して行われた。ヨウ素原子を選んだのは蛋白構造を調べる際に行われる重原子置換をシミュレートするためである。実験ではエネルギーを最も深い結合電子を励起するように選んだ。

より低エネルギー密度の実験結果では内殻の電子が叩きだされて空孔ができると外側の電子が空孔を埋め、よく知られているように軌道のエネルギー差の輻射が起きる。実際、孤立Xe原子ではそうなったが、しかし分子場では新しい現象が観測された。

理論的に予想されたのは数個の束縛電子を除く47電子だったが、実際には分子中のヨウ素からは少なくとも54個の電子が奪われた。カンサス州立大学の研究グループによると全部で60個以上の電子が剥ぎ取られたが、分子は小さい質量のかけらになって飛び散ったため、正確には剥ぎ取られた電子数は決定できないとしている。このことはヨウ素の結合している原子からの電子も叩き出されたことを意味している。

 

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Credit: Nature

 

LCLS2でさらに高エネルギー密度に

これから隣に建設されるLCLS2では繰り返しレートが1秒あたり120回から100万回に向上し、さらにエネルギー密度が向上する。今回の実験はLCLSで単パルス蛋白解析を目指すための準備とも考えられる。

研究グループはより大きい分子量の分子で研究を継続する計画を立てている。ちなみにアップグレードは一般に古い加速器を改良して別の加速器に仕上げるがLCLS2はLCLSの隣に建設される。

 

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Credit: LCLS2

 

極限エネルギー照射環境の分子科学はLCLSとLCLS2が先端に立ち、極限エネルギー環境の原子・分子科学を書き換えていくことは確実だが、世界中に何箇所も建設されるにはコストが大きすぎる。どの時点かでテーブルトップXFEL光源の開発が急務であるが、現在提案されている案は全てが短パルスレーザーを用いる。また加速器とレーザーが急接近しているが、欧州では大型レーザー施設ELIの建設が始まっている。

今回の結果は原子・分子分野のフォトン・サイエンスだが、単パルス構造解析で重原子置換を考えた上での予備実験と考えると基礎科学を超えて大きな影響力を持つ。大型加速器の建設が単なる先端科学のショーケースであれば良い時代は終わったのかもしれない。じっくり将来性を吟味する能力が問われているような気がする。

 

 

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