LHC後の次期加速器計画が高電圧パルス発生源開発で一歩前進

現在世界最大の陽子・陽子衝突型円形加速器LHCはアップグレード後の実験に入った。LHC後の計画は日本がホスト国として先導的な役割を果たす直線型加速器ILCが最有力とされているが、1兆円規模の財政出動には懐疑的な見方も多く、学術会議の公式見解は「時期尚早」つまり消極的否定にとどまり、現政権も積極的ではない。

世界を見渡すと着々と次の一手が計画されていて、時期を逸すればILCはタイミングを逃すかもしれないという不安もある。しかしILCにはCLICという伏線があり、このふたつの直線加速器は組織が統合されて万全を期す体制となっている。つまりILC、CLICどちらかが生き残れば、ポストLHCとして次期直線加速器が実現するRedundancyを持つ。このCLICや次期円形加速器(FCC: Future Circular Collider)の共通要素技術である高圧パルス発生装置をETHが開発した。

 

ポストLHC加速器とは

中でもFCCと呼ばれる円形加速器計画や直線加速器CLIC(Compact Linear Collider)(注1)がCERNを中心として2025年から計画を進める次世代加速器である。こうした加速器の共通技術として高電圧パルス発生技術がある。このほどETHがCERNと協力して開発した高圧パルス発生装置がCERNに持ち込まれた。CERNのパルス発生装置はコンパクトながら400Vの家庭用電源で稼働し、50Hzで180kVパルスを発生する。家庭用電源の変動を抑えるため大型コンデンサー8基と200個近くの小型キャパシタが付属している。CERNではこのパルス発生装置をクライストロンに組み込み、140msecパルスの電子、陽電子の加速に用いる。電源にはコンパクト変圧器も備えている。スイスの電力会社との共同で開発されたものだが、CERNの強みは国境を越えた周辺に関連企業が集約して、見えざる手でCERNを支えていること。またCERNからのスピンオフ企業もあって一種の産官民複合体が形成されている。

 

(注1)ILCとCLICは2013年にLCC(Linear Collider Collaboration)に統合されているので、両者はひとつの組織(LCC)の下にある独立したプロジェクトである。国内では日本がホスト国としてILCを先導するような報道が多いが、LCCはILC、CLICというふたつの直線加速器プロジェクトを持ち、円形加速器FCCはこれらと並行して検討されている、というのが正しい。

どちらにも使える共通技術であるパルス発生源が開発されたというのが今回のテーマである。CLICがILCと技術基盤を共有するが、規模から考えて両者の実現には財政上の壁以外に、(意図的な)サイエンスの重複もあるので今後、両計画の検討・精査が望まれる。CERNの方針は3年以内に決定される。CERNが独自に将来計画を「決める」ところが凄い。

 

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Credit: ETH

 

パルス発生装置の開発ではパルス(幅・ピーク)不均一性1000分の1以下、180kVピークへの立ち上がり、立ち下がり時間に注意が払われた。また低電力運転特性も特徴となっている。開発者は数ヶ月前から稼働しているスイスのFEL施設でも加速器グループの中心的な存在である。

 

円形加速器か直線加速器か

ILCがタイミングを失いかねないといったのは、超伝導加速空洞の発達を背景にして円形加速器からビームの質の良い直線加速器へ関心がシフトしている中で、周長を大きくして円形加速器の宿命である放射光の影響を減らした巨大円形加速器がCERNや中国で計画されているからである。LHCはアップグレードでルミノシテイを上げ2035-2040年まで第一線で稼働する。その先の加速器が巨大化した円形加速器となるのか直線加速器となるのか、CERNはこの重要な決断を3年以内に決定する。

CLIC(全長50kmの加速器はCompactとは言い難いが)電子・陽電子衝突型加速器ではLHCの切り開いたヒッグスボソンに関するより精密な知見をより精度の高い実験で発展させることができる。LHCの7倍のエネルギー(100TeV)で陽子・陽子衝突実験を行うFCCは周長80-100kmとなり下図のように、ほぼレマン湖の長さに匹敵する。エネルギーフロンテイアに立つFCCではこれまで観測できなかった新しい粒子の発見が期待される。全長30kmでCLICと同じ電子・陽電子衝突実験を目的としたILCとCLICが精密化でヒッグスボソンの知見を広げていく、FCCはエネルギーフロンテイアで新粒子を開拓する、という棲み分けである。FCC国際共同研究チームはCERNがホストとなり2018年に概念設計と建設コスト作成を予定、26か国75研究所からから研究開発チームが組織されている。

 

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Credit: Google Earth

 

国境の意味が薄れた加速器科学

LHC以降の大型加速器の建設コストが1国家の財政能力を超えた現在、国際共同研究体制は財政負荷を分散できるとはいえ、コミュニテイのコンセンサスはもとより経済性においても最良の選択が必要になったことはいうまでもない。またILCはLCCのもとでCLICと並行して計画が煮詰められ、どちらかが建設されれば直線型と円形のFCCが相補的に運用されることになる。

ILCの動きも昨年は米国が積極的に関与する日米協力を軸に動きが活発になったが、米国の新政権には債務超過の難題と増大する国防予算の狭間に置かれ、かつてのSSC中止のような加速器予算縮小のリスクがある。今後、日本はILCを背負っていくかCLICへの協力に切り替えるのか、決断を迫られている。核融合ではITERがJT-60の設計方針を引き継いで国際プロジェクトとして先端にいるが、衝突型加速器の世界でも似たケースになるのか、どうかが決まりかけている2017年は重要な転機になるかもしれない。

すでにLHC以降の大型加速器をどの国につくるにしても一国の技術、予算ではどうにもならない時代に入っている。日本には国際プロジェクトを立ち上げてリーダーシップを発揮する役割を期待したいし、蓄積のある日本の企業は、どんどん国際共同プロジェクトに積極的に関与していって欲しいとは思う。

 

しかし一方では欧州の加速器計画には暗雲が立ち込めている。というのも英国がEUを脱退したためにEUの科学技術予算は他の加盟国が補填しない限り、減額せざるを得ない。そのためELIなどの大型施設の予算にも相当な打撃が予想されているからである。いまのところこの「補填」にはドイツ、フランスが反対していて、英国は追加の拠出金を拒否している。ちなみにITERは完成までの10年間、参加国は分担金が課せられており、脱退は認められていない。CLICやFCCが分担金の契約をどうつくっているか不明であるが、(ブリュッセルの役人たちは)途中で予算が途切れないような巧妙なしくみをつくりあげているだろう。国を超えた国際共同チーム方式には(理念としては素晴らしいが)財政状態の変化や為替変動など柔軟な対応ができないと、途中で計画が頓挫するリスクもあることも頭に置く必要がある。

 

 

 

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