実現が前倒しになる放射光HALSについて

筆者はこの原稿を中国でかいている。ここの大学には800MeVの放射光がある。少し前に分子研のUVSOR(公平に見てUVSORII+)に追いつこうかというアップグレードが行われたばかり。下の写真のようにド派手なLED照明が目立つが、リングのエネルギーが上海の3.5GeVSSRFと北京に今年から建設が始まる6GeVのBAPSの間にあって、目立たない存在であった。そのためか少々けばけばしいが「積極的に目立とう」精神はユーザーには明るい夜道となり概ね好評のようだ。

 

アップグレードしたHLSだが 

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Credit: Prof. Xinyi Zhang

 

毎年4-5月はこの大学にとって、9月から始まる新年度の準備と予算取りでスタッフたちは忙しいのだが、毎年この期間に筆者は客員教授として1カ月滞在する。新幹線もあるが最近は上海空港から国内線で1時間なので空路を用いることが多くなった。上海の空港も拡張されて国内線の乗り継ぎが快適になった。大学に来てみると今年は何か雰囲気が違うと思ったら、4月26日に国家主席が大学を訪れちょっとした騒ぎだったようである。国家主席を迎えたのはこの大学の量子暗号の研究者で衛星とファイバーオプテイクスによる量子暗号通信プロジェクトリーダーの潘建偉教授である。

放射光はHALS(Hefei Advanced Light Source)として1.5GeVリングの次期計画が進められてはいたが、HLSアップグレードが終了した時点でもあり、昨年(2016年)の時点ではHALS建設はBAPSが完成してから、10年後すなわち2031年あたりという印象だった。

 

しかし昨年から1.5GeVを超えたHALSマシンの検討が活発化している。ここで行われた昨年の回折限界光源ワークショップ2016でBAPSの7BAラテイスを意気揚々と発表したQuin教授に続いて、若いWang教授の溌剌としたHALSのCDRに関する発表が注意を引いた。彼の計算では2.0GeVと2.4GeVラテイスを比較すると、後者では周長(〜760m)のアドバンテージのせいで、2.0GeVの58pmradやBAPSの68pmradを抜いて38pmradとなる、という驚くべき結果を報告したからである。

ESRFは7BAラテイスで150pmrad、APSIIは相当頑張って60-70pmrad、SPring-8IIは100pmradとなる「老舗」の6GeVマシンたちにBAPSは果敢に挑み、APSIIに肩を並べる68pmradを狙うことに敬意を表する気持ちでいた。しかしかしHALSは38pmradとなるので、目立たない存在だったこの施設が一気に世界の最先端に立つことは驚きと同時に、10年後なら有りえるかもしれないという印象を持った。

 

国家主席が大学を訪れる

しかし今回来て驚いたのは国家主席が大学を訪問していたことだけではない、HALSの予算化が想像していたより遥かに急ピッチで進んでいたからである。加速器の人たちはCDRをすでに完成し、3年後に建設開始だという。それにはDDRは少なくとも2年後には完成している必要がある。科学アカデミーの関係者によるとHefei市は北京、上海に続いて3大科学技術重点都市に選出されたことで、風向きが変わったようだ。早ければ2年後の建設開始もあり得るという。

日本では3GeV放射光の300億円の捻出が難航しているが、2.4GeVHALSの建設は急ピッチで進められることとなった。不動産バブルがひと段落したとみられている中国だが、地方都市はいまだに建設ラッシュが続いている。キャッチアップの速さと資金力があれば先端に立つことが容易いことに驚く。「1番でなくてはならないのですか」、というのはこの国では愚問である。なぜなら科学アカデミーの大型予算を獲得するには世界一の性能であることが求められるからだ。

 

HALSのような3GeV以下のリングエネルギーでも(ALS、SLS、Siriusのように、)局所的に硬X線を提供するリングもあってもよいのかもしれない。RIXに話を絞るとESRFのID26がTender X-ray(2-10keV)では世界最高のステーションであることは明らかなのだが、下のSuper XASステーションもなかなかの性能である。

 

 あなどれない2.4GeVSLSのSuperbendステーション

スライト21

このことは2.4GeVリングでもSuperbendステーションのスペックが相当高い能力を持つことを証明している。つまり軟X線〜Tende X-rayに主眼を置くならば、3GeVでなければならないのかというとそうでもないのかもしれない。むしろより低いリングエネルギーで建設コストや電力コストの負担を軽減させて実現しやすくする。そんなアプローチが可能であるばかりでなく、38pmradという最先端の光源にもなり得ることが新鮮な驚きであった。いつのまに中国に教えられるようになったのだろうか。立ち止まって何もしないというのが一番良くないことを痛感させられた。

 

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Credit:  NSRL/USTC 

 

話をこの大学(USTC)の顔となった潘教授に戻すと、2015年末に筆者はあることがきっかけでこの人に紹介された。上海の彼の研究所のレベルは世界先端にある印象だった。そのとき彼は自分たちのプロジェクトで最終的には量子暗号衛星を打ち上げるといっていた。もちろん本気にしなかった筆者は年があけて中国が世界初となる量子暗号通信衛星2基の打ち上げに成功したニュースを知った。

なるほど、この国は潘教授のような将来性のあるプロジェクトには数100億円規模の予算を預けて自由にやらせる体質なのだ。日本の3GeV放射光に予算がつかないのは将来性を表現できていないせいなのかもしれない。

 かつてのバブルはあり得ないとしてもマインドが冷え込むのはまずい。なんとか弾みをつけて「先に進むことをためらう」状態を脱しないといけない。

 

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