European XFELが発振に成功〜財政負担を軽減するドイツ式精算

DESYはすでに自由電子レーザー(FLASH)が軟X線XFELのパイオニア的存在であった。ヨアヒム・シュナイダー先生率いるFLASHプロジェクトは強力なリーダーシップでSLACのLCLSとともに先導的な役割を果たした。XFELはその後、硬X線領域に発展してSACLAが登場した。欧州は満を辞して短波長XFELを検討し、2009年から非営利企業の研究所としてEuropean XFEL(欧州XFEL)の建設を開始、1年遅れで2017年にコミッションにこぎつけた。

  

欧州のX線自由電子レーザーの拠点となったDESY

DESYに建設することで、グルノーブルと並び欧州の先端科学の拠点とすることになった欧州XFELは交通至便なハンブルクの大都市圏にある。ハンブルグの冬季は恐ろしく強い北海からの風が吹き荒れるが、市内にあるというメリットはDESYならではのもの。DESYにはFLASHとPETRAIVにアップグレード予定が決まっているPETRAIIIが存在し、加速器研究環境が整っていた。欧州XFELは一風変わった組織で英国のDiamondのようにDESYの傘下にある「会社組織(非営利企業)」となる。近代的な建物には欧州を中心に世界中から若い研究者が集まっている。そのため正式名称はEuropean XFEL GmbH(注1)となる。職員数は280名で平均年齢は低くすでにLCLCやFLASHなどでXFELの経験を積んだ先端にいる若手研究者が集められた。欧州の著名な研究所はポスドクが溢れ激しい競争を勝ち抜いた優秀な人材を集めている。

 

(注1)Gesellschaft mit beschränkter Haftunの略。有限会社を意味する。日本の旧有限会社(YK)の起源。

 

世界最大のXFELとなる欧州XFELは、当初の2016年から1年遅れとなる2017年9月中のコミッショニングを予定している。地下トンネルに設置された3.4キロの加速器がこのほど試運転し発振に成功した。X線パルスは、0.8nm(25keV)の波長で世界最短波長記録となる。今回の試験ではパルスレートは1Hzであったが9月のコミッショニング以降は毎秒27,000パルスに増大する。マシンの詳細は欧州XFELのウエブに詳しいので、ここでは研究予算と運勢組織について記したい。DESYについては別記事を参照されたい。

 

マネージングディレクターのファイデンハンスルによれば欧州XFELは計画に参画した欧州諸国の研究者の共同作業で建設が可能となった。世界中のXFELノウハウを集結して加速器が製作され今回の発振成功に結びついたという。これは、欧州の大型科学技術で一般的になりつつあるホスト国に重みがついたパートナー国の負担金による分担して捻出する方式。なおEUは加盟国から負担金を徴収して大型科学技術予算はそこから捻出して、巨大プロジェクトへの重点配分と一般の研究者に再配分する。後者では必ずしも負担金に見合った研究費の再配分にはならないのと採択時にEUの管理を経るため、作業が煩雑となり研究者の批判も多い。欧州XFELの予算(約1,200億円)は参加する国々からの負担金とドイツ連邦政府、ハンブルグ市と州政府からの出資金で賄われた。実際にはこれらの比率は42%、58%と、ホスト国の負担が約6割となる。政府と2つの地方自治体の3者が分担することで、大雑把にいうと後者の負担は最大でも230億円程度と、財政負担が低減した。

 

財政負担を軽減するパートナーシップ

ドイツ人はレストランで一緒に食事しても割り勘以外はありえない。奢ったりお奢られたりするのが嫌いなことはよく知られている。確かに頻繁に食事をする仲でなければ、奢った場合にも次は奢られる機会が来るとは限らないし、貸し借りを作りたくないこともあってこの原則は慣習となっている。(暗算能力が高い人が、勘定をスムースに処理して各人に請求する。ここで帰り際に一人ずつ支払う長い列が迷惑となる日本と違って、あらかじめ現金が集まるので店側にも迷惑にならない。)話がそれたが、そのような考え方にたつとパートナーとホストがほぼ半分づつ建設費を負担し、連邦政府、市、州政府がドイツの負担金を分割することは自然な流れである。EU予算に頼ると加盟国とEUの役人(ブリュッセル)の干渉がある。一方で、一国が主導すると負担が大きくなるので、負担金を利用を希望する11のパートナー国で負担することになった。EUと距離を置くことでEU加盟国以外、例えば高度な加速器技術を有するロシアも参加している。

ちなみにロシア以外のパートナー国の負担金は1-3%だが、ロシアの負担は27%にもなる。つまりEUにとらわれずロシアも参加できる代わりに国力に相応の負担金を払うという義務がある。またドイツの負担が大きい理由はドイツの財政事情が他の国に比べて深刻でない、すなわちつぎ込める資金が調達できる現実を背景としている。パートナー国の財政規模に比例させたといってもロシアから多額の資金を得ていることは興味深い。またXFEL施設のインパクトを考慮すると日本のSACLA建設時のように戦略的な重要性を鑑みた結果と取れる。しかし背景にはEUの中で例外的に堅実なドイツ経済がある。

 

欧州XFELの組織面での特徴は、加速器の建設と運営をミッションとした非営利企業としたことで、企業化は雇用の確保や運営の効率を上げた。職員280名という体制はこの規模の加速器としては少ない方で、建設と運用に従事する職員数を確保し事務職員数を最小限としている。欧州XFELの組織図を見ると加速器建設に主眼を置く「建設部隊」の印象が強い。それでもXFELの先端研究者が参加した「作り手」と「ユーザー」が一体となっていることは注目に値する。ただし形式的には独立企業である欧州XFELはDESYとの結びつきが強い。全く独立して別の場所に整備しようとしたら1,200億円の予算、280名の職員では難しかった。

 

大型施設を無理なく整備する知恵

一方ではEU予算は一国では整備できない1,000億円を超える規模の大型施設を計画的に建設するの役立つ場合もある。例えば、大型レーザー施設ELIがある。欧州XFELの建設コスト(1,200億円)は2005年当時のものであり、物価上昇を考慮すればこの枠では収まらない。

欧州XFELで得られる放射光の10億倍という超高輝度のコヒレントX線短パルスは単分子構造解に圧倒的な強みがある。X線領域では、物質との相互作用が小さいため、蛋白質の構造が破壊される以前に散乱像が記録できる。つまり、原理的には、1回の照射で原子レベルの構造解析に必要な散乱回折データが得られる。

 

分子生物学の地位が高いドイツ

ドイツの欧州分子生物学研究所(EMBL)はフランスのグルノーブルと並んで欧州における分子生物学の研究拠点の一つで、欧州を中心とする構造解析研究者が集まる。欧州XFELは構造解析ツールが戦略の一つである。分子生物学の地位が高い国(注2)に欧州XFELが稼働したことは興味深い。欧州XFELの戦略がうかがい知れる。

(注2)話がそれるがドイツの分子生物学の研究者層の厚さと社会の中での地位は際立っている。例えば混雑したUバーン(地下鉄)でもEMBLと書かれたバッグを肩にかけている若者がいたら、周囲がスペースを作って気を使う。研究者が蛋白結晶を移動中だからである。対照的な話はSLACのLCLS。ある時、友人でLCLSに深く関わるホジソン教授は筆者にポツンと行った。「不思議なことだが、スタンフォード大学には、分子生物学講座がないんだ。」

XFELの利用には分子生物学との連携が必要不可欠なのに、という意外な悔しさが滲んだようなこの一言が印象的だった。

 

 

You have no rights to post comments

Login

スポンサーサイト

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.