LHCが新現象を発見〜標準理論を覆すか

CERNのLHCは世界最大のハドロン(注1)衝突型加速器で、陽子・陽子衝実験のエネルギーフロンテイアにある。国際色豊かなジュネーブに近いLHCは研究面でも、国際協力なしには考えられない。その一つの実験グループLHCb(注2)が奇妙な現象をとらえた(Science Apr. 18, 2017)。

 

(注1)ハドロンは強い相互作用をするクォークで構成される粒子。強い相互作用をしないレプトンは電子、電子ニュートリノ、ミュオン、ミュ・ニュートリノ、タウ、タウ・ニュートリノである。

(注2)LHCbはATLASやCMS検出器などLHCの検出器のひとつ。その目的は標準理論の検証で、bクオークを対象として粒子と反粒子の微妙な差を追求している。衝突地点を検出器が覆うATLASやCMSと異なり、LHCbでは前方に放出される粒子を20mに渡って多段検出器で計測する。500トンにもなる検出器は下に示すように平面検出器を並べた構造。66カ国からの700名の研究者の国際研究チームが関わる。

 

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Credit: LHCb

B meson (B中間子)は、反ボトムクォークとアップクォーク(B+)、ダウンクォーク(B0)、ストレンジクォーク(B0s)またはチャームクォーク(B+c)の各々の組合せから構成される中間子である。その中のダウンクオーク(B0)は短寿命でK中間子と電子あるいはミューオンに崩壊する。今回の主役はこのダウンクオークの崩壊で、ミューオンは電子より200倍も質量が大きいのにもかかわらず「レプトン普遍性」では電子と同じように振る舞う(相互作用が電子と同じ)と考えられてきた。

しかし今回のLHb実験でミューオンの崩壊頻度が低いことが明らかになった。標準理論は電子とミューオンの高い対称性を持つとしているが、実際これまでの実験はそれに矛盾しない。今回の実験はこの「定説」を、またその枠組みである標準理論を覆す証拠となるかもしれない。

 

破壊と創造は一緒に訪れる

なおLHCbと同じく標準理論の検証(もしくは棄却)を目的とした加速器がKEK-Bで、こちらは電子・陽電子衝突実験でB中間子、タウ粒子、チャーム粒子を生成する。ここでも国際共同チームがBelle検出器で研究に取り組んできた。リングもKEK-SuperBへアップグレードされるのを契機にBelleII検出器へのアップグレードが完了し、このほど設置が完了した。

標準理論の不備な点は枚挙にいとまがない。あくまで標準理論といっても過去の事象を説明できる「寛容な」モデルに過ぎない。モデルの検証を試みた結果がが逆にその矛盾をさらけ出すことになることは多い。間違ったことを見つける=修正してさらに一般化、なので破壊=創生となる。このイメージを表現しているのがCERNにあるヒンズー教の最高神、シヴァ神の像である。時に無慈悲な破壊の神となるシヴァ神は破壊だけでなく創造の神でもある。

 

時々LHCの加速器の周りで若い研究者の怪しげなシヴァの踊りが見られる。これは創造を祈願したものである。間違った定説の破壊には無慈悲にならなければならない。固定観念やエスタブリッシュメントにわずかでも疑念を生じたら、徹底的に検証と言いつつ矛盾を追求して、反論できないような証拠をつかむのが科学者の基本的な態度であり、現代科学を支えている基本原理なのではないだろうか。ドグマに流されないことが重要である。流されれば、ドグマの御用学者となる危険性がある。ドグマに矛盾があれば恐れずに切り込み矛盾をさらけ出して破壊することが創造である。 

 

 

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