加速器の未来は明るいのか

最近の高エネルギー物理学のトップランナーがCERNにある世界最大の円形加速器LHCであることは疑いようのない事実である。これまで世界各国を代表する高エネルギー衝突加速器が建設されるたびに規模(エネルギー)は大きくなり建設コストも高騰した。それぞれ見合った成果を出して役目を終えると後継機に未来を託してフェードアウトしていった。

 

ハドロンコライダーで歴史を作ったフェルミ研

例えば円形加速器の歴史に残る加速にシカゴのフェルミ国立研究所(フェルミ研)の中心として米国の国力が揺るぎないものであった、1979-1989年の期間に運転されたテバトロンがある。コックロフト・ウオルトン前段加速器で作られた陽子ビームは直線加速器で加速され、ブースターリングに打ち込まれた。直線加速器のエネルギーは改修を受けて最終的には120GeVに達する。特徴のある研究棟(コントロールタワー)は何度かSF映画に登場したので見学していなくても脳裏に刻まれている人が多いのではないだろうか。

このエネルギーでの実験はそのままターゲットに衝突させる衝突実験を行うことのほかに、テバトロン中を反対に加速された反陽子ビームと衝突させることもできた。陽子—反陽子衝突実験の最大重心系エネルギーは2TeVにもなり、当時のエネルギーフロンテイアであった。テバトロンは周長6.3kmのリングで数々のアップグレードでトップクオークの発見の偉業を成し遂げたが、その後LHCにエネルギーフロンテイアを譲ることとなった。テバトロンは2011年9月30日に運転を終了し閉鎖されることとなった。

 

エネルギーフロンテイアでなくなったフェルミ研

フェルミ研究所は50周年を迎えて健在であり、現在は加速の建設でないもう一つの素粒子研究手法である宇宙からのニュートリノの観測実験で標準理論を超える統一理論と宇宙形成の解明に向けた研究を行っている。数多くのニュートリノ観測プロジェクトの中でもDUNE(Deep Underground Neutrino Experiment)が代表的なものである。DUNEの目的はニュートリノの性質を明らかにし、超新星誕生時に生命維持に不可欠な重元素生成機構と陽子崩壊の可能性を探ることにある。DUNE実験はフェルミ研のLBNFとサウスダコタ州の地下実験場で行われている。

基本原理としては日本のT2K実験(注1)と同じでフェルミ研究所の地下の加速器からニュートリノを地中に打ち込み1300km離れた地下で観測する。

(注1)JPARCの陽子加速器でニュートリノビームを作り岐阜県のスーパーカミオカンデでニュートリノ振動を観測する。

ハドロン衝突実験で頂点に立つLHC

エネルギーフロンテイアを継承したLHCは周長27kmのハドロン(陽子−陽子)衝突実験の円形加速器である。ヒッグスボソンの発見の偉業の後もアップグレードでエネルギーを13TeVに倍増させたが、その成果が出始めた。そのLHCが最近5つの新しい素粒子(状態)を発見した。LHCの成功にはEU予算を集中的に投入しているが欧州のプロジェクトの枠内にとどまらず、世界の先端にいる頭脳と各国政府の資金が支える国際コラボの果たした役割が大きい。

LHCはレプトン型(電子−陽電子)衝突実験の為に建設されたLEP加速器のトンネルを利用している。2世代でトンネルを共有できた点も超伝導加速器や計測系などインフラに資金をつぎ込めた理由である。

LHCは今後10年の予定は埋まっていて、しばらくは高エネルギー物理の先端にとどまることは間違いない。今後の10年間はLHCが加速器の先端にとどまるとして、ではその次の加速器はどうなるのだろうか。日本が主導する国際リニアコライダー(ILC)計画がLHCの後継機として北上山地にサイトへの誘致活動が進められている。

 

レプトン衝突実験への回帰

LEPやKEKBで行われてきたレプトン型(電子-陽電子)衝突実験はハドロン型(陽子−陽子あるいは陽子—反陽子)衝突に比べて、過程を特定しやすく解釈が楽で精密実験に適している。また超伝導加速空洞を使った直線加速器ではビームの質も向上する為、ヒッグスボソンのより詳細な挙動を精密に調べるには有利なことがILCの建設目的となっている。

一方でこれには加速勾配が30MV/mの超伝導空洞16,000台と30kmの直線加速器が必要で建設コストは低く見積もっても1兆円を越し、誘致が決まれば日本はその半分の経費を負担しなければならない。財政が緊迫する中で一国の科学技術予算に影響を与えるスケールの予算化が難航する一方で、CERNは別のアプローチでレプトン衝突実験を考えている。それがプラズマ・ウエークフイールド加速器である。

 

CERNの目指すプラズマ・ウエークフイールドとは

加速器の巨大化と建設コスト高騰は限界に達している(放射光もその例外ではない)ことは明らかである。その為CERNはコンパクト加速器を利用したプラズマ・ウエークフイールドがLHC以後のレプトンコライダーとなると考えて、AWAKEプロジェクトを立ち上げている。

プラズマ・ウエークフイールド加速には短パルスレーザーあるいは高エネルギー荷電粒子ビームをプラズマに打ち込む方式がある。前者はレーザー・ウエークフイールド加速(Laser Wakefield Accelerator, LWFA)と呼ばれ、レーザーパルスがプラズマ中を進行する際に局所電場がプラズマから電子を分離する原理(Nature Phys. 2, 749 (2006))で加速する(Phys. Rev. Lett. 113, 245002 (2014))。

 

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Credit: Nature Phys.

 

LWFAプラズマ・ウエークフイールド観測装置(上図)ではヘリウムガスジェットに30フェムト秒の短パルスレーザーを打ち込みプラズマとレーザーのウエークフイールドをチャープパルスでポンプ・プローブ計測し、CCDカメラで計測されたホログラム(上図上段)を解析すればプラズマ・ウエークフイールド振動(下図b)が得られる。

 

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Credit: Nature Phys.

 

CERNのAWAKEプロジェクトは高エネルギー加速器を用いたプラズマ加速(Plasma Wakefield Accelerator, PWFA)を開発している。下図に示すPWAFではパルスの後端の電子はイオンの方向に強いクーロン引力を受け、負電荷の塊がレーザーパルスを追いかけて光に近い速度でプラズマ中を動いていく。レーザー(あるいは加速器ビーム)パルスの航跡に沿って生じる強力な電場勾配シミュレーションで電子が加速される。ここで電子をプラズマ中のプラズマ航跡に作られる電場に打ち込めば、この原理で短距離で高エネルギー電子に加速することができる(Nature 515, 92 (2014))。

 

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Credit: Nature

 

加速器方式、レーザー方式のどちらもプラズマ密度の最適化やパルスビーム収束技術など未解決の技術課題が多い。しかしプラズマ加速により0.1mm程度でGV/mの電場勾配が実現できるとなれば、数10kmの巨大な加速器がテーブルトップサイズで済むことになる。レーザー・ウエークフイールド加速を電荷を持たない中性原子で実現したインドの研究グループの論文(Nature Phys. 9, 185 (2013))は注目に値する。

CERNのAWAKEにもライバルが存在する。バークレイ研究所のBELLAプロジェクトである。バークレイ研は1GeVレーザー・ウエークフイールド加速ユニットを100個直列に並べて1TeVのエネルギーのレプトン衝突実験を目指している。米国の加速器予算はテバトロン以来、削減の対象となりSSC計画の挫折の後も財政難は続き、LHC利用で「基礎研究タダ乗り」との批判にさらされている。その為かレーザー・ウエークフイールド研究者の大型加速器批判はILCにも向けらている。(実際、英国と米国はILC分担金の拠出から手を引いている。)

 

大型レプトンコライダーに黄信号

プラズマ・ウエークフイールド加速器が実現すればLHCにとって脅威であるばかりでなく、同じく1TeV領域(重心系エネルギー500GeV)のレプトン衝突実験を予定しているILCの存在意義を脅かすことになりかねない。全長30kmで1兆円の建設コストの加速器の性能がコンパクトで低コストのプラズマ・ウエークフイールド加速器で実現できるなら勝負にならないからである。

従来の加速器の最大の弱点はミッションを終えれば「鉄の塊」に過ぎなくなることだ。加速器再利用は例外で多くの場合、加速菅や空洞、架台、電磁石、電源ケーブルは鉄クズになる運命にある。LHC、KEKBのようにトンネルが再利用できる場合やPETRAやPEPのように放射光リングとして新しい研究に活用されるのは幸運中の幸運なのである。

しかしプラズマ・ウエークフイールド加速器が実用化されれば「加速器革命」が起きるだろう。個人の研究費でテーブルトップの加速器が手に入るようならば加速器の「使い捨て」も許される。その時になれば文科省も(国民も)300億円の放射光を30年ごとに更新していく重荷から解放される。「近未来の加速器はレーザーと融合する」日が遠くないのかもしれない。そこまでを含めて考えるならば、加速器の未来は明るいと言えるだろう。

 

大型生物が巨大化したことで種の維持が困難となった時に、有利となった小動物が覇権を握った生命の歴史は加速器でも起こるのだろろうか。将来を予想するのは困難であるが、各国が慢性化した財政難に苦しむ時代がプラズマ・ウエークフイールドに有利に働くことになる。現在はレーザーサイエンスが先行しているこの技術に加速器研究者も熱い視線を送っている。

 

 

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