5nmを切るナノビームが身近に〜多層膜ラウエレンズ

世界で最も小さい硬X線ビーム径(7nm)が得られるビームラインはSPring-8のXU29である。しかし7nmビームは全長1kmの長尺ビームラインを使い、縮小光学系に「大阪ミラー」(注1)と呼ばれる高精度表面研磨多層膜ミラーを使ってようやく達成できる「チャンピオンデータ」であって、一般的なビームライン長で許される収束ビームはせいぜい100nm程度となる。長尺ビームラインの利用は限られており、光学系も形状誤差0.1nmという極限的な仕様との組み合わせは誰でも実現できるわけではない。

 

(注1)EEM(Elastic Emission Machining)加工法で形状誤差0.1nmに研磨後、白金と炭素の多層膜をコーテイングしてある。

 

多層膜ラウエレンズ

誰でも使える数nmクラスの高空間分解能ビームを可能にするのが多層膜ラウエレンズ(MLL, Multilayer Laue Lens)技術である。詳細はチャップマンらの成書が詳しい。きっかけとなったのはX線顕微鏡光学系の開発で、X線レンズにはフレネルゾーンプレート、KBミラー、屈折レンズ、ウオルターミラーなどがある。これまでゾーンプレートが収束光学系に多く使われているが空間分解の限界が製造法(リソグラフイー)の空間分解能で決まるため、10nmが限界とされている。

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上に原理を示す多層膜ラウエレンズ(D. Rudolph, B. Niemann and G. Schmahl, Proc. SPIE 316 (1981) 103)は回折過程にブラッグ反射を用いるためにゾーンプレート回折効率で10nm以下の空間分解能が可能になる。APSや兵庫県立大グループが高性能化を競っているが、このほどブルックヘブン国立研究所は5nmのナノビームが得られる多層膜ラウエレンズ成膜技術を開発した。

 

NSLSIIのナノビームサイエンス 

一般にナノメートル厚のゾーンプレートでは位相が揃ったビームが得にくいが、開発されたシリコン上への金属膜成膜装置を使って作製されたラウエレンズでは、多層膜ラウエレンズでは誤差が厚みの1/3以下にすることができるため、位相補正により10nmを切るビーム収束が可能になる。新光源NSLSIIにおいて平面型に比べて倍の集光効率(27%)をもつウエッジ型ラウエレンズ(下図)で11nmの収束ビームが得られ、高分解能イメージングに利用されている(Scietific Reports 3 3562 (2013))。

 

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Credit: Scientific Reports

 

多層膜ラウエレンズ系は真空チェンバーの内部に置かれNSLSIIでのナノイメージング実験に利用されている。NSLSは米国東部地区の産業利用が多くNSLSIIの建設が可能になったのもそうしたユーザーの力が大きかったと筆者は考えている。成膜チェンバーなど高真空技術関連企業も多い。インハウスにそうした企業と協力して開発した成膜装置があるというのはX線顕微鏡の開発で強みとなる。日本ではNTTや日立など技術力のあるメーカーとの共同研究が鍵となるのだろう。

 

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Credit: NSLSII

光源建設が終わってからビームラインと計測装置を整備し始めたのでは遅すぎるようだ。日本の3GeV放射光でも光源建設と並行してビームラインと計測系の設計を進め、ビームが得られるタイミングで実験がはじめられるくらいのスピード感が欲しい。

X線顕微鏡などビームラインに専用装置を整備し、計測系の開発と表裏一体で応用実験を効率よく行うには開発環境(準備室や評価装置)を整備することが重要である。

 

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