ポーランドの放射光ソラリス

「惑星ソラリス」はポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの「ソラリス」を元に制作された映画で、惑星ソラリスは知性を持つ有機体が棲む「ソラリスの海」(下のイメージ)に覆われた謎の惑星である。「惑星ソラリス」は評価の分かれるやや難解なSF映画であるが、原作はポーランドで人気が高い。

 

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Source: reddit.com

 

ソラリスの経緯

そのポーランドで最初の放射光施設となるのがこの作品から命名された「ソラリス」である。ポーランドは日本の放射光学会に刺激されて放射光施設なき放射光学会を結成し、熱意を持って放射光施設の建設を目指してきた。施設がないにも関わらず建設予定地クラコウ市で放射光学会が開催され、並々ならぬ関心と意欲は放射光先進国に引けを取らない。

ソラリスの名前の意図は知性を持った「ソラリスの海」のように、ポーランド国内の科学者の知的生産に役立つようにという願いが込められている。ソラリスはクラコウのジャギロニア大学(Jagiellonian University)の第3キャンパスに建設されている。

ポーランドの財政状態は良いとは言えないが、EUがELIなど大型施設を東欧に建設し地域活性化で欧州全体の経済活性化を狙う動きが活発化している中で、科学技術と先端産業の知的ハブとしてソラリスへの期待が高まっている。

 

ソラリス建設計画は12年前に始まった。ポーランド放射光学会には36研究施設から数100 名の研究者が参加し、コンソーシアムを設立して自主的な活動を続けてきた。2009年にクラコウの大学キャンパス内に設置する計画が認められた。

ソラリスの最大の特徴はMBAを最初に導入して第4世代放射光の先陣を切ったMAXIVの技術を導入することで、ルンド大学と協力してMAXIV(1.5GeV)のコピーマシンが建設される。建設予算はEUから支出され2015-2016年に主要な建設は終了している。

欧州にはESRFの他、最先端の3GeV放射光施設が割拠して競い合っている中で、ポーランドが独立して1.5GeVリングを建設することに関して批判も多かったが、放射光学会の結束と自立心の高い国民性でEUに働きかけ、計画は12年後に花開くこととなった。国内には結晶構造の研究者が多く電子顕微鏡の硏究層の厚い国なので、いずれより高いエネルギーのリングに興味を持つかもしれない。EUは何故、放射光施設のない東欧に資金を投入したのか。東欧に眠る産業発展のポテンシャルに投資したと考えられるがEU加盟国がEUに収める「支払金」はプールされEUが決めた重点課題に投資する。加盟国にとっては財政負担となるが国単位の事業と別会計の「財布」ができるため大型設備整備が国に負担をかけずに推進できるメリットがある。

 

ソラリス蓄積リング

DBA12セルからなる1.5GeV蓄積リングは周長96m、水平エミッタンス6nmradとなる。下図のセル模式図でコンパクト化のために補正用双極子磁石は小型6極磁石(SC0, SCi)に組み込まれる。デフォーカス6極磁石(SDo, SDi)は双極子磁石に隣接している。

 

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Credit: Solaris

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Credit: Solaris

 

現在、建設中のビームラインはPEEM/XASUARPESの2keV以下のエネルギー領域の2実験ビームラインで、今後、結晶構造解析、軟X線分光のビームラインが追加される。将来的にはビームラインと実験ステーションは追加され、ポーランド国内を中心とした研究者に開放される。

光源やビームラインの性能はMAXIVの1.5GeVのスペックと同じで、驚くようなものではないがポーランドが独自に放射光施設を持つことへの熱意が感じ取れる。(ワルシャワの建物は対戦中にドイツ軍に破壊され尽くしたが、レンガの破片と元の設計図と写真を頼りに、完璧に再現した。郷土愛、愛国心、結束力はずば抜けて強いことも建設が挫折しなかった理由の一つだと考えられる。)

 

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Credit: Solaris

 

ソラリスは「ソラリスの海」のように科学技術を支える拠点になることは間違いない。EUは英国の離脱やイタリア銀行の不良債権問題で経済的基盤や結束力が揺らいでいる中で、ポーランドはEUの恩恵で放射光科学が活気付いている。ELIとならんで近い将来EUの科学技術、特にフォトンサイエンスに東欧が寄与する可能性は高い。

 

ソラリスを中心としたポーランドの放射光研究者の結束力は非常に強い。日本の3GeVリングが「もつれ」状態から脱する気配がないのはユーザーを巻き込んだコミュニテイの結束に問題があるのかもしれない。放射光施設は「ソラリスの海」のように知的生命活動の海に例えられる。ユーザーが「ソラリスの海」3GeVリングと一体となって知的共同体となる日は来るのだろうか。

  

 

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