異色の高輝度光源PETRAIIIの実力

世界的な3GeV光源の建設ラッシュと建設が遅れている日本の3GeV光源の「もつれ」については先に記事を書いたが、現在でも解決する気配が見えない。このまま日本の放射光が世界の先端から消えていくのか不安が募る。

 

DORISIIIからPETRAIIIへ 

ここであらためて世界の高輝度光源を眺めてみると、それらは3-3.5GeVリングカテゴリと6—8GeVリングカテゴリに分けられる。前者がいわゆる3GeV光源である。後者は高エネルギー光源と区分され、現在運用中のESRF、APS、SPring-8の3施設に加えて、2017年から建設が開始されるBAPSが加わり4極体制となる。しかし忘れてならないのはドイツ(DESY)のPETRAIIIである。この「古くて新しい」6GeV光源は専用マシンで設計・建設されたリングではないのだが高原の高輝度で最近、存在感を示している。

本コラムでも既にDESY滞在レポートで触れられているPETRAIIIの蓄積リングとしての特徴をあらためて紹介する。DESYには2012年まで稼働していた4.5GeVのDORISIIIというリングがあった。DORISIIIは9箇所にウイグラーを有しており、全部で36本のビームラインを有していた。DESYの加速器群、DESY、DORIS、PETRA、HERAの位置関係を下に示す。現在はVUV-FEL、FLASHの入射器も設置され、欧州の高輝度光源の拠点となりつつある。

 

DESYはDORISからPETRAを経て最大のep衝突リングHERAを建設したが、PETRAは1987年、HERAは2007年に素粒子実験を終えた。高エネルギー実験はDESYからCERNに軸足を写したが、DORIS、PETRAは放射光リングに再利用されることとなった。デSYはDORIS、PETRAと電子・陽電子衝突型加速器を中心に研究を展開し、チャームやボトムなどの重いクオークの性質研究やグルーオンの発見などの成果を上げてきた。

 

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Credit: DESY 

4.5GeVポジトロン(5バンチ)が最大140mAで289mのリングを周回するDORISIIIは多くのドイツ国内研究者の放射光需要に答える主力光源として活躍してきた。水平方向の自然エミッタンスは410nmradと現在の光源性能としては物足りないが、ウイグラー(注1)の高フラックスは多くのユーザーに人気であった。

(注1)筆者は見学した際に加速器担当者からウイグラーのマグネットに乗って加速器全体を景観するように勧められた。加速器研究者にとっては苦心して光軸を調整した挿入光源に乗るなどもっての他なのにこれには驚いた。いかにもドイツらしい頑丈な架台に固定されていたこととエミッタンスがそれほど低くないので気にしなかったのだろうか。

 

話をPETRAIIIに戻すとDORISIIIの4.5GeV光源に慣れたユーザーが満足する高輝度光源をDESYは新規にリングを建設することなく、高エネルギー実験用のPETRAのアップグレードで対応した。理由は色々あるがFLASHやEuropean XFELとの関係でDESYとしては新規リング建設より旧リングのアップグレードを選択せざるを得なかっただろうと筆者は推測している。ともかくPETRAIIIの課題はDORISIII(BLX1など)の環境を大幅に変えることなく、高輝度光源を提供することが要求された。

 

PETRAIIIアップグレード

DORISと同様にPETRAもアプグレードを繰り返すが最終形態のPETRAIIIへのアップグレードの骨子は以下のようなものである。

・ 6GeVリング、100mA(周長2.3km)の高輝度化のためのDamping wiggler(全体で直線部100m)設置

・ リンングの1/8に相当する9箇所の直線部(5mもしくは2mx2)挿入光源(W/U)13のチューナブルIDステーションを設置

下図にPETRAIIIの実験ホール(Hall North)の平面図を示す。全てのビームラインが完成したわけではないのでここではX線分光のP65について説明することにする。なおP65の他により高輝度で時間分解実験に適合したP64の建設も急ピッチで進んでいる。

 

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Credit: PETRAIII 

 

PETRAIIIの目標は高エネルギー領域(<100keV)でSPring-8(BL46)を抜いて世界最高輝度を達成することである。アップグレード予算は1億2000万EU(日本円にして144億円)と極めて質素な予算計画だが、ドイツ人は倹約家で目標を実現するための必要最小限の予算という印象である。DESY滞在レポートにもにあるように建物もモダンで、無駄のない設計には好感が持てる。

 

高輝度化スタデイの結果

マシン改造に先立って行われた高輝度化スタデイの結果は以下のようにまとめられる。

・ zero current時のnatural emitanceは2.55GeVで極小となる。3GeVと5GeVでの実測値は計算値とよく一致する

・ Horizontal emitance (zero current)は155pmrad、Vertical emitanceは鑑賞系の分解能以下で測定できず(Vertical emitanceはゔぇrちcあlぢsぺrシオンで決まる)

・ Round beamエミッタンス派87/83pmrad(Flat beamと同じか小さい)

・ Bjorken-Mtingwaの式と実測値は一致

下にPETRAIIIの写真と実験ステーション(North Hall)を示す。DORISIII、FLASHとEuropean XFELとの関係に注意されたい。

DESY image

 Credit: PETRAIII

アンジュレータビームライン P64とP65

さてP65の設計方針は4-44 keVのエネルギー領域の高輝度ビームを供給するため簡素化された光学系である。22keVまではRhコートミラーで集光が可能であるが、40keVまでの集光をどうするかワークショップで議論が行われてビームラインの仕様が決まった。P65の特徴であるQ-scan(高速の分光器制御)にはこの手法を編み出したFrahmが関わり、分光器の設計に工夫を凝らしDORISIII-X1同等の10-20Hzの繰り返し走査が可能となった。

P64とP65のアンジュレータパラメータは共通で、

     λ=32.8 mm

     Kmax=2.70

     E1=2.3keV

となる。周期は直線部が2mのP64では66周期だが、P65はミニアンジュレータというべき11周期しかない。それでもP65のフラックスは8.9keVで2x1012 ph./sに達する。P64は8.9keVで1013 ph./sの高フラックスが得られる。P65は平凡な光学系でスポットサイズが1mm(H)x1mm(V)だがP64は150mm(H)x50mm(V)となる。

PETRAIIIは144億円の投資で世界最高輝度の高エネルギー光源となった。(下図)何しろ周長が2kmなのでダンピングウイグラー以外に拡張することもできるし、特に下図に示す未使用の直線部分に挿入光源を入れる余裕もある。

 

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Credit: PETRAIII

 

PETRAIIIは加速器再利用のお手本

高エネルギー実験の加速器を流用する光源には日本のPF-AR(6.5GeV)があある。周長が大きいわけでもないしエミッタンスは低いとはいえないが、リングの1/4を利用しているだけなので、拡張アップグレードがなされPFが移行できていたら、PFの次期光源のタイミングもう少し余裕があったかもしれない。

納税者の立場からは1/4しか利用していないということは運転経費(主に電気料金)の3/4は捨てていることになる。もちろん再利用するにはマシンのアップグレードで近代的なリングに生まれ変わるポテンシャルがなくてはならないのであるが、加速器研究者が知恵を絞れば(磨けば)輝き出すこともあるのではないか。

 DESYはPETRAIII、FLASH、European XFELが集中する高輝度光源拠点として今後の発展が約束されている。さらにその先には欧州のレーザー施設ELIが超高輝度X線発生に活躍することになるだろう。10-20年スケールで高輝度光源を考える必要があるのと、PETRAIIIのように高エネルギー加速器の再利用も含めて長期計画を練るべきなのではないだろうか。ただし巨大な高エネルギーリングを究極的な高輝度光源(USR)に転用しようという計画(KEK-X、PEP-X)もあるのだが、ここまでくると加速器の進歩との比較優位性や実行するときのリスクを慎重に検討しなくてはならない。

 

PETRAIIIの実験ホールは周長が長いためビームライン同士が近い距離にある。ビームライン同士の干渉を防ぐために各ビームラインは干渉を避けて巧みに仕切られ全体がパズルのように組み合わさっている。下図参照。実験ホールの空いたスペースがほとんどないのに機能的に配置された実験ホールは効率的なデザインである。全スペースを最大限に利用するビームライン配置は感心するが、ドイツの工場の効率的な配置や近代建築を見れば共通点が多い。きっと3D的に理解し設計する能力が高いのだろう。

 

DESYSlide slideimage

Credit: PETRAIII 

 

ハンブルグは北海からの風が強くその寒さは半端ではない。お世辞にも(冬季の)環境がユーザーフレンドリーとはいえない。それでもPETRAIII、FLASH、European XFELはユーザーを引きつけるに十分な魅力に溢れている。

 

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