加速器新技術によるコンパクトX線光源〜その3 : 高次高調波発生(HHG)

放射光の加速器科学は短パルス性とコヒーレンス、高輝度の追求でレーザーを目指してしているといわれる。確かにXFELを契機として赤外から紫外線領域まで革命的なテーブルトップ光源としてレーザー光の成し遂げてきた功績なしに我々の社会は成立しないといっても過言ではない。またXFELの短波長限界も直線加速器とアンジュレーター技術の組み合わせで硬X線領域にまで拡張された。コヒーレンスと短パルス性を特徴とする将来のテーブルトップX線光源として期待されるレーザー・ウエークフイールド、逆コンプトン散乱を取り上げたが、今回は高次高調波発生(HHG)について簡単に紹介したい。

 

この分野で先端グループのひとつであるMIT-DESYグループは、アト秒分解能のバイオーイメージングを想定し、いわゆるWater-window領域(280-540eV)を狙っている。HHGによるX線発生(Popmintchev, T. et al.. (2012). Bright Coherent Ultrahigh Harmonics in the keV X-ray Regime from Mid-Infrared Femtosecond Lasers, Science, 336, 1287-1291.)は高エネルギーパルスと繰り返し周波数が高いフェムト秒近赤外レーザーを用いるコンパクト短パルスコヒーレントX線光源である。

 

MITグループの最近の実験では近赤外レーザーとしてTi:サファイア(800nm、8mJ)をガスジェットに照射して100eV以下のエネルギーで30fs、1kHzのHHG(107 photons/sec)パルスが得られている(下図)。

 

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Credit: J. Optics 2015 17, 094009.

この実験の原理は下の図に示される配置で、真空中で希ガス(Ar、Ne、He)のジェットに近赤外レーザーを縮小光学系で絞り込んだ高密度パルスを照射し、発生するHHGパルスを得る簡単なもの。実際には近赤外レーザーと光学系を除けば照射チェンバーとバックエンド(フイルターと光学系)のコンパクトな発生装置となる。

MIT-DESYグループによればHHG発生効率が低いため近赤外レーザーパルスの繰り返し周波数と出力が高いことが重要で、数mJの出力が必要としている。そのためには光学的パラメトリック増幅(OPA)あるいはパラメトリック・チャープパルス増幅(OPCA)技術が適している。

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Credit: J. Optics 2015 17, 094009

既存のTi:サファイアレーザーではOPAでは出力が数mJが限界でHHGの繰り返し周波数を上げることができない。これに対しOPCAは高出力化に向いておりポンプソースにYb:YAGレーザーを用いれば、高出力化が可能としている。

2015年には42mJ、17ps、1.03μm、1kHzのYb:YAGレーザーで2.1μmにピークを持つHHGパルス(2.6mJ、39fs)が得られている。

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Credit: J. Optics 2015 17, 094009

一方、UCバークレイ校のFalcone groupは物質中のダイナミクスを研究する観測手段としての単パルスX線レーザーの必要性から、LCLSのXFELによる超高速時間分解実験を行う傍、テーブルトップHHG発生技術開発も展開している。彼らはMIT-DESYグループと同様のスキームで、30mJ、800nm、10Hzレーザーをmイラー収束してガスセルでプラズマをつくり電場中で干渉によりHHGパルスを生成している(T.K. Allison, et. al., Optics Letters, Vol. 35, Issue 21, pp. 3664-3666 (2010))。

 

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Credit: APS web

HHG発生による軟X線領域の輝度は上の図の左上の黒い斜めの線に示すように炭素K吸収端(295eV)以下では放射光の偏向電磁石に迫るところまできている。今後の発展は近赤外レーザーの高出力、高繰り返し周波数の技術開発に依存して、この領域でのテーブルトップX線源の実用化が近いことを想起させる。

アト秒科学になくてはならないHHG技術が次数を伸ばしていく中でXFELの実用化で恩恵を受けたユーザーの注目を浴びることになった。軟X線領域のテーブルトップX線レーザーとして完成度が高く、「レーザー技術で作り出されるX線レーザー」は将来の実験室での短パルス時間分解実験に、必須なツールになる時代が近い。

3回にわたって取り上げた手法はどれもレーザー技術なしには考えられないことは注目に価する。いまさらながらプラズマ科学のポテンシャルに驚かされる。しかし注意したいことはレーザー同様にその弱点は固定エネルギーの光源であることにある。これはスペクトロスコピーのように自由なエネルギー走査が生命線であるサイエンスには致命的な欠点である。その意味でテーブルトップX線光源が普及して実験室に設置できる時代になっても、広いエネルギー領域にわたってなめらかなスペクトルを提供する放射光、偏向電磁石放射光は理想的な光源であることは変わりない。

 

放射光はレーザーに近ずけば近ずくほどこのことが明白になるのではないだろうか。

 

加速器新技術によるコンパクトX線光源〜その1: レーザー・ウエークフイールド

加速器新技術によるコンパクトX線源〜その2: 逆コンプトン散乱  

 

 

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