加速器新技術によるコンパクトX線源〜その2: 逆コンプトン散乱

MITのGraves、Monctonらの研究グループやSLAC、DESYなど世界各国の加速器研究者が真剣にコンパクトX線光源の開発に取り組んでいる。MonctonはかつてAPSの所長として高エネルギー放射光に取り組んできた大型X線光源の研究者である。

 

大型加速器からスピンオフする研究者

なぜX線光学や加速器研究者がこぞって、コンパクトX線光源の研究開発に乗り出すかというと答えはGravesのプレゼンの中にあった。毎年1,000人以上の研究者が利用するAPSの建設費が10億ドル、日本円で1,000億円になるため、財政負担が重すぎることがある。APSは50x50ミクロンのマイクロビームのフラックスが1015photons/se、輝度が1021のビームスペックを持つ。またこの種の放射光施設が大きすぎて実験室に収まるコンパクトX線源のインパクトが大きいためでもある。

日本はVUV領域の小型リング開発がかつてさかんだったが、米国ではこれをテーブルトップX線源と呼び、硬X線領域で実用化する計画であるが、エネルギー領域と同時にコヒーレンスの高いXFELの単パルスを実現する挑戦的なものである。代表的なXFELのLCLSは100fsの短パルスに1012個のコヒーレントフォトンが詰まっている。一方で建設費はやはり10億ドルである。

 

逆コンプトン散乱

加速器のコンパクト化にはいくつかの取り組み方があるが、前回紹介したレーザーウエークフイールドに続いて今回は歴史のある逆コンプトン散乱による研究開発について紹介する。コンプトン散乱は物質にX線を照射した際に電子によってフォトンが非弾性散乱されてエネルギーを失う現象である。このとき散乱されるフォトンは入射フォトンより低いエネルギーを持つようになる。

逆コンプトン散乱はその逆で加速器中の高エネルギー電子がフォトンと衝突して散乱したときに、より高いエネルギーを持つフォトンとなる、すなわちフォトンのエネルギー変換が生じる。MITグループが考えるのは全体で4mほどの空間に、RF電子銃、1mの直線加速器、収束電磁石、X線光学系を組んで高出力レーザーにより電子とフォトンの衝突で硬X線パルスを発生させるものである。ここでの開発要素は9.3GHz RFフォトカソードと9.3GHz SW直線加速器で両方ともSLACグループが開発を担当している。前者はV.A. Dolgasshev、後者はS. Tantawiが開発を分担している。特に後者は9.3GHzで高効率定在波が立ち1kHzの反復レートを持つTantawi独特の設計によるもので、コンパクトながら高効率の短パルス加速器となる。

 

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Source: Graves (MIT/Arizona Univ.)

レーザー光学系はDESYとMITの共同開発チームが担当している。シード光は1030nm、300fs、1nJ、200MHzのYbファイバーレーザーで、これをRFフォトカソード用にダイオードポンプで300fs、250nm、20μJパルス、逆コンプトン用に増幅しSHGで50mJ、2ps、515nm、200MHzのパルスを得る。

逆コンプトン散乱後の電子は軌道を曲げてダンプ、発生X線はINCOATEC社のモンテル光学系(多層膜ミラー)で取り出される。散乱地点の電子ビームプロファイルや発生X線パルスのプロファイルと時間変化がシミュレートされている。

その結果は12keVで0.1%b.w.で2x1010 photons/s、5%b.w.で5x1011 photons/sとなる。この手のコンパクト光源が目指すのはXFEL的な使い方において特徴を発揮できる。5x5μmスポットで1010-1011photns/sのフラックスは放射光(bending magnet)が100x100μmスポットで1010-1011photons/sなので遜色ないといえる。

 

下に示す写真がSLACで開発されたコンパクト直線加速器。

 

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Credit: SLAC

 

本当の狙いはテーブルトップXFEL

応用分野は医療用CTでパルス特性を利用して検査時の被曝量を減らせる。また放射光に持ち込めない試料、例えば美術品鑑定や新薬など多岐に渡る。しかしこれだけが最終目標ではない。加速器の小型化の行き着く先にあるのはテーブルトップXFELである。コヒーレント逆コンプトン散乱によるXFELは論文(PRL 2012, 108, 263904)を参照されたい。

このためには電子回折でエミッタンス交換原理(PRL 2012, 108, 263904)を使う必要がある。構造的には電子反射部を直線加速器で挟み込むことになり全長は増えるがそれでも、テーブルトップサイズである。これには透過型の電子線回折格子をシリコンの微細加工でつくる必要がある。シミュレーションでは1keVでピーク輝度1028、パルス幅28fs、100kHzの性能が予想される。これはXFELと3.5世代放射光X線光源の中間にあたり、将来の展望としてふたつの光源のギャップを埋める新光源として期待される。

 

この研究開発にはSLAC、DESYの加速器技術とMITのレーザー、微細加工技術、企業のX線素子の利用が組み合わされた協力体制に特徴がある。ひとつの研究所や研究グループでできることがなくなってきたようだが企業の製品開発にも共通する流れなのかもしれない。ライバル同士が協力しあうカルチャーを認めなくては先端にいられないのだろうか。少なくとも垂直統合でうまくいく技術開発が少なくなった。これは技術要素が専門化して複合的なシステムを組み立てることが先端性に求められる結果なのかもしれない。日本が不得意な取り組み方であるが、態度を変えないと取り返しのつかないことになるかもしれない。

 

加速器新技術によるコンパクトX線光源〜その1: レーザー・ウエークフイールド

加速器新技術によるコンパクトX線光源〜その3 : 高次高調波発生(HHG)

 

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