加速器新技術によるコンパクトX線光源〜その1: レーザー・ウエークフイールド

加速器というとLHCのような巨大な施設を誰でも思い浮かべる。最先端のX線光源である放射光やX線レーザー(XFEL)もそうだ。しかし加速器技術の発展によりGeVクラスの加速器が9cm程度の加速官におさまり、レーザーと組み合わせることでテーブルトップのX線光源が実用化されようとしている。

  

巨大化しすぎた加速器

ヒッグス粒子を発見した加速器というと縁遠いと考える人でも、物質科学に携わる研究者なら誰でも放射光やXFELを身近なツールとして恩恵を受けているし、一般の人でもかつてのブラウン管のお世話になっていた。そのブラウン管が姿を消したように巨大化した加速器の世界にも変化が訪れようとしている。

従来型の加速器では電磁波(RF波)で荷電粒子(電子)にエネルギーを注入し位相を揃えて加速していた(波乗りの原理)。しかしこの原理では電場の上限が〜100MV/mでそのため高エネルギー粒子加速器は全長が数kmにも及ぶ。

 

新しい加速原理

このためレーザー・ウエークフイールド(LWFA: Laser Wakefield Accelerator)と呼ぶ異なる原理による加速器も検討されている。この新しい原理では強力な短パルスのプラズマで電場を作り加速するもので、数cmの距離で1GeV以上のエネルギー電子を作り出すことができる。実際にLWFAで9cmの加速管で4.2GeVの高エネルギー電子生成されることが報告されている(Phys. Rev. Lett. 113, 245002 (2014))。

LWFAのアイデアは日本人を含む研究者らが35年前に提案していたもので、レーザーパルスがプラズマ中を進行する際に局所電場がプラズマから電子を分離するという画期的なアイデアであった。パルスの後端の電子はイオンの方向に強いクーロン引力を受け、負電荷の塊がレーザーパルスを追いかけて光に近い速度でプラズマ中を動いていく。レーザーパルスの航跡に沿って生じる強力な電場勾配で電子が加速される。この時できる電場は100GV/mにも及ぶが距離は10-100ミクロン程度にすぎない。

 

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Credit: Physics Today

 

電子をプラズマ中のレーザー航跡に作られる電場に打ち込めば、この原理で短距離で高エネルギー電子に加速することが可能になる。このためにはレーザー出力が1018 ー1019 W/cm2となるため、高出力レーザーの出現を待たなければならなかった。最近のダイオード・ポンプ固体レーザーとチャープ・パルス増幅の組み合わせにより、10TW〜PW高出力レーザーのコンパクト化が進んだため、LWFAの実用化の可能性が開かれた。これまでにLWFAにより4.2GeVまでの電子の加速に成功している。

 

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Credit: J. Phys. B

 

これまでの実験では0.3PWピーク出力を持つ40フェムト秒レーザーパルスが用いられた。コンパクトX線光源の実用化のためにはプラズマ中の相互作用の時間を増やす必要がある。プラズマ条件をそのために最適化するモデリング計算では7x1017/cm3のプラズマ密度が最適とされた。またレーザーパルスを最適スポットに絞り込む工夫も必要である。次の計画では10GeV加速管を100個組み合わせて2 TeVの電子-陽電子衝突実験を狙うという。従来型加速器では30-50kmの直線加速が必要になる。またコンパクトX線源にはこの技術をFELに応用すれば良い。

10 kHz以上の繰り返しレートで安定なFELにはレーザー出力の安定性が鍵となるが、そのためにはダイオード・ポンプ固体レーザーの改良が必要である。財政的にも設置場所にも限界に達した従来型加速器に変わり研究室にコンパクトX線光源が普及する日も近い。このことは巨大な加速器を作り続けることの終焉を意味している。

 

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Credit: Phys. Rev. Lett. 113, 245002 (2014)

 

巨大化した恐竜が絶滅しそのあと、小型の哺乳類にとって代られたように、加速器のミニチユア化が現実化す流ようになれば、TeV級加速器が研究室予算で作れるようになるかもしれない。研究所や大学の研究室にはそれぞれXFELがあり、病院、工場でもコンパクトX線光源が動く世界はどのようになるのか想像するだけでも楽しい。

日本では3GeV光源をめぐる「もつれ」で将来が見えていない。巨額な加速器を作り続ける財政的余裕はないと文科省も思っているだろう。しかし永久に高額な加速器を作り続けることではないことをはっきりいえる時代に到達しているのだ。そのアイデアが日本人を含む研究グループによって35年も前に提案されていたというのは喜ばしい。

 

 

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