先端大型施設の整備と予算化について〜コミュニテイ主導型へのシフト

最初に、現在は大型装置の整備に極めて不利な財務省の予算配分方針であることにふれざるを得ない。このことは大阪大学レーザー研高部教授の資料に詳しくかかれているように、今に始まったことではない。2014年度の政府の方針は「GDP1%を目標とする科学技術予算の拡充」であったはずだが、予算要求の伸びと大型施設の整備が必ずしも整合していない。

  

先端大型施設の整備と予算化のシフト

2014年ごろから政府・省庁主導からコミュニテイ主導型へのシフトが顕著になった。大阪大学のレーザー方式による核融合を狙った大出力レーザーが次期計画予算獲得ができなかった理由を、高部教授は国家戦略としての省庁の主導によるトップダウン型の予算化がコミュニテイの要望に対応したボトムアップ型に切り替わったためとしている。筆者の記憶では「100億円以上の大型施設の予算化にはコミュニテイの総意が必要」という条件について学術会議の告知があった。大出力レーザーの予算獲得がならなかった点に関しては以下に挙げる別の問題もあるが、一般的に大型施設整備は国家的戦略でトップダウン方式での予算化が困難になったことは事実である。

ちなみに日本の核融合政策はJT60、ITERすなわちトカマクが主で大出力レーザー方式がトカマク方式が上手くいかない場合の切り札という位置付けなので、本命であるトカマク方式を上回るレーザー圧縮方式の予算化は難しい。米国でさえもリバモアにある大出力レーザー予算が科学技術予算でない(軍事)予算である。

 

例外的な大型施設

ITERには毎年およそ160億円の予算が、また高速増殖炉開発にはその倍の300億円が指定席として、確約され注ぎ込まれているがこれは例外である。ちなみにITERは日本が全体の9.1%を支援するが2007年から10年間は脱退が許されていないため、当然予算も毎年注ぎ込まなければならない。大雑把に10年で1,600億円となる。高速増殖炉「もんじゅ」についてはよく知られているように、核燃料サイクルの要として保守・管理費で185億円が毎年注ぎ込まれている。これまでに投入された建設費は5,886億円だが、厳密には国費4,504億円に民間資金1,382億円が加算されている。現在は建設は終了し運転・維持費として28年間で建設費に匹敵する4,524億円が投入された。

ここではITERや「もんじゅ」は例外的項目としてこれ以上立ち入らない。ここでの問題は大型装置を国家が計画的に整備することが、行政主導の枠組みが放棄された結果、困難になったことにある。この「方針転換」の理由については説明されていないように思える。言い換えれば研究の最先端に関して当事者でない政府・省庁でなく直接研究に関わる研究コミュニテイでどう使うかを決めて使うことになる。それ自身は研究者にとって歓迎すべきことと言える。しかし科学技術は日進月歩である以上、例外的な「指定席」案件についても変化が生じている。例えば核融合実用炉は大型のITERに代表される大型トカマク方式の延長線上にない民間主導の小型トカマクになる可能性も出てきたし、「もんじゅ」に至っては廃炉も検討されている。

 

学術会議や専門家で構成する有識者会議が研究コミュニテイの総意で提案された計画を承認して予算要求する事になれば、役所への説明や陳情に頼らず実情に沿った予算執行が行えるので無駄がなくなるだろう。放射光コミュニテイがこれからの10-20年を視野において世界最先端の設備を維持するには数100億円規模の予算が必要だ。それにはコミュニテイの同意が必要であり、性能が世界一であることや世界にあって日本にないので建設するといった説明だけでは済まない。具体的には日本に3GeVリングがないから、あるいは東北地方に放射光リングが無いから整備する、というだけでは理由にならないということになる。3GeVリングでどのような研究が可能になり、その結果として下流側(研究手法とテーマ)、そのインパクト・アウトプットを調査・積算して、光源のスペックを絞り込むことが先決と思われる。

 

最先端大型研究施設の整備・共用

ここで2014年度政府決定事項を振り返ると「政府研究開発投資を対GDP1%とする」とある。そのため「科学技術イノベーション総合戦略2014」文科省予算1兆1,467億円(対前年度比18.1%増)の6項目中の一つ、「わが国の研究開発を支える大型研究施設の整備・運用として、「最先端大型研究施設の整備・共用」を施策とするとしている。

具体的には2015-20166年度最先端大型研究施設の整備・共用の促進で399億円を計上しているが、内訳は以下のとおりである。

・ SPring-8       〜96億円

・ スパコン京     〜125億円(ポスト京の開発0.67億円)

・ SACLA      〜74億円

・ J-PARC     〜104億円

 

上記4施設は全て既存(建設終了)施設の運営・維持費用であり、新規施設の建設計画は含められていない。つまり当面はこれらの4施設が最先端大型研究施設とされ、これらの運用だけで世界最先端が維持できるという考えに基づいているが、それは誤りである。現実には世界の先端が予想以上に早く推移した結果、これらの施設が全て世界先端にあるわけではないことに目を向けなくてはならないだろう。

・ SPring-8   アジア最高輝度放射光は台湾のTPSである。SPring-8アップグレードの輝度はAPSアップグレードに及ばない。SPring-8の軟X線領域の輝度は世界の潮流である3GeV光源に比べて2桁低い。

・ スパコン京   スパコンランキング2016で首位は中国の「天河2号」、「京」は5位に転落。

 

多少自虐的な評価をするならば、4施設の中で世界先端にあるのはXFELのSACLAと大強度中性子源J-PARCだけとなり、そのSACLAにも現在建設中の欧州のXFELが迫ってきている。放射光施設では気がつけば世界の潮流(3GeVリング)に乗れずにいる。熾烈な競争に飛び込んで世界の先端に立つためには、常にトップである必要は無いが、一定の期間で大型施設の整備のための予算を継続して投入しなくてはならない。先端科学(技術)で立国しようとするにはこの覚悟ができていなければならない。2008年の金融危機から回復ができていないために財源不足の状況にあることは確かだが、放射光のような科学インフラに投資することはリスクが少ない成長政策であるはずだ。ではどのくらいの規模の予算が必要なのだろうか。

 

3GeVリングのコミュニテイ主導型予算化

コミュニテイ主導型の予算化にシフトしたのならば、今後求められるのは建設されるべき3GeVリングのスペックの議論だけでなく、どこにどのような施設・ビームラインをつくればユーザーのアウトプットが最大になるのかが問われるだろう。その意味で光源からでなく下流側からの要求をあげそれに応えられる光源を整備する、いわば「発想の逆転」をしなければ現在の状況ではうまくいきそうにない。2050年くらいまで視野に入れた長期的なビジョンが必要になる。

ごく大雑把に放射光施設の建設経費を調べると、以下のような内訳が標準的である。

1. 加速器本体(蓄積リング+入射器)〜50%

2. 挿入光源+ビームライン~15.6%

3. 建物〜18.7%

4. インフラ(注1)〜15.6%

(注1)実験室整備、受電・変電設備、上下水、ゲストハウスなど。

 

3GeVリングの標準的な建設経費は300億円とされていて、実際にSLiT-Jの総工費は300億円が計上されている。これを基準にしてコストの内訳を上記の比率で計算すると(ごく大雑把な見積もりであるが)、

1. 加速器           〜150.3億円(〜200.4億円)

2. 挿入光源+ビームライン   〜46.8億円

3. 建物            〜56.1億円

4. インフラ          〜46.8億円

となる。費用の内訳はSLiT-Jを基準にして上記の比率で算出したもの、括弧内は3GeV KEKについての経費を示す。総計はSLiT-Jの300億円に対して、3GeV KEKリングは単純に(同じラテイス)で加速器について周長に比例するとして、〜350億円となる。実際にはより複雑なラテイスとなる3GeV KEKはこれより増えると考えられるが、ここでは簡単にするためSLiT-Jを基準とした。

 

既存施設に整備することによる経費圧縮

ここで経費を圧縮する項目を考えてみる。実際には入射ビームトランスポートや制御系の改造が必要だが加速器の入射器をおおざっぱに30億円と見積もると、この分はシナリオA,Bではそれぞれ省ける。また播磨地区、KEKとも受電・変電設備およびゲストハウス・食堂などインフラがすでに整備されているので、それらを考慮してインフラを最大1/2に圧縮できるだろう。また挿入光源・ビームラインの整備も前期と後期に分ければ1/2に建設時コストを圧縮するとして、見直すと次のようになる。

1. 加速器           〜120.3億円(〜170.4億円)

2. 挿入光源+ビームライン   〜23.4億円(2分割して整備した場合の最初の整備分)

3. 建物            〜56.1億円

4. インフラ          〜23.4億円(既存施設の有効活用で1/2に圧縮)

この圧縮案にしたがって播磨地区にとKEKに2リングを建設する場合、それぞれ223.2億円、273.3億円となり、シナリオA,Bは496.5億円、シナリオCは273.3億円、シナリオDはSLiT-Jが割高になるので、挿入光源とビームラインを分割して建設時の負担を減らしても276.6億円でこれに3GeV KEK(273.3億円)地方自治体のインフラ整備、土地が上乗せされる。

仕様の似た2つのリングをほぼ同時に予算要求することは予算説明上困難と考える人も多いかも知れない。しかしコミュニテイ主導型の予算化では「必要性とインパクト・アウトプット」が最重要視される。またシナリオBは3GeVリングの播磨地区での建設をSpring-8のアップグレードの一部と考えれば、リングの重複イメージを避けることができる。

コストだけをみればシナリオCが圧倒的に有利にみえるかもしれないが、根幹にあるのは持続性であり、一方のリングがシャットダウンされても他方が使えるし、そもそも日本に2拠点が必要であることがコミュニテイの要望である。

 

コミュニテイ主導型予算には受け皿となる組織が必要

具体的には2リング建設に係る496.5億円を4年間でみることになるので、年間の初期投資負担は124.1億円である。また後半にはSpring-8アップグレードがはじまることを考えれば6年で550-650億円の負担となるので、放射光を世界最先端の研究施設として2拠点体制で整備するのに、年に100億円程度の負担を6年継続することが目標となる。

結局、大型施設整備の予算化における省庁主導型からコミユニテイ主導型へのシフトは、役所から研究者への主権のシフトであり、先端研究の実情に即して予算化が行われる好ましい傾向である。しかし実際問題、英国における科学評議会や中国の科学アカデミーのBASICのような大型予算の受け皿・管理組織が必要となる。ただし安易に財団法人化すれば予算を配る役所的な組織となり、やがて肥大化して形骸化する。これは絶対に避けたい。アカデミックな権限(評価と優先順位付け)を一括する科学技術評議会のような組織づくりが必要な時期にきているのかもしれない。

もちろん大型施設予算が簡単につくものではなく、競合する幾つかの中から優先権で順位付けをして、順次建設していくことになるが、将来の計画が立てやすくなるので次世代を背負う研究人財育成にも役立つ。提案の案件に対して今年の予算はつけられないが何年後に優先権を与えます、と言われればそれに向かってさらに良い計画を練り上げるのではないだろうか。同時に公平にということは無理でも、優先度を設定して順次、整備していくということが合理的なのは明らかだろう。だが一方では綿密な将来計画で世界の先端に立ちそれに対応したインパクト・アウトプットを出せることが条件になることはもちろんである。

 

 

 

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