4つのシナリオで考える国内の放射光の未来

現在、Spring-8の硬X線領域の輝度と分子研UVSORのVUV領域(軟X線)(注1)にギャップがあり、各国の第3.5世代、第4世代リングに2桁以上輝度に差をつけられた状況にある。ナノ科学をはじめ先端研究におけるこの領域の重要性が増しているため緊急にこの領域のレベルアップが求められている。これについては放射光学会が最優先で対処する必要性を学術会議に提言している。 

 

(注1)国際的には軟X線の外側にある低エネルギーX線領域(Tender X-ray)を含めた電子構造に関わる情報が豊富な波長領域で、100nm程度の高輝度ビームの先端的分光設備(PES, RIX, XAS, STXMなど)の実現に向け、第3.5世代、第4世代リングの建設計画が各国で目白押しとなっている。

しかし国内では3GeVリングのスペックや建設主体、建設サイトを巡って理研が東北地区の大学、企業と連携して建設するSLiT-J計画とKEKの高スペックの3GeVリング建設案が、競合し全国ユーザーを巻き込んで将来の展開が不透明となっている。

 

放射光は科学インフラ

科学インフラともいえる放射光の全国普及には地域分散と拠点化という相補的なアプローチがある。放射光は数100億円を超える大型施設であり、個々の地域や組織の利益でなく国全体の利益(アウトプット)を考えて長期的展望に沿って展開することが肝要である。初期投資が大きいこれらの施設は分散化して一時的に至便性を高められても持続性(サステイナビリテイ)に問題が生じる。施設を拠点化して利用度を高めれば有利な点が多くなる。

そこで持続性に注目して長期的な展望に立ち、いくつかシナリオを考え、それぞれの場合について統合整備案をまとめてみた。前提として国内では「東と西に2研究拠点が必要十分である」点については、異論がないであろう。そこで研究拠点をどう作れば良いかについて、(あくまで試案であることをお断りした上で)簡単に紹介する。

 

シナリオA

・理研はSpring-8、SACLAに新たに3GeV光源を加え軟X線領域の増強を図り、西日本拠点として全国放射光ユーザーの研究需要に応える。具体的には(東北放射光向けの)3GeVリングを播磨地区に建設する。入射器は既存のものを使い、東北放射光計画から入射器部分(XFELへの拡張準備部分も含む)を省く形で建設。(3GeVリング完成を待って意見調整の上New SUBARUリングは撤去。)将来のSpring-8II建設期間のユーザー移動がなくなり、軟X線を補強できると同時に研究アウトプット空白がなくなる。

・KEKは(関東以北を中心とした)全国共同利用の責務を果たすため、3GeVリングを建設する。入射器は既存のものを使用するが、リング建屋の他、研究棟とインフラの更新を含め東日本の放射光科学研究拠点とする。東北放射光の推進に関わる研究者グループはアウトステーションの形でKEK新光源に取り込むことで、東北放射光計画はKEKに舞台を移して研究活動に専念できる。またインフラ整備に対する地方自治体の財政負担が軽減される。建設完了するまでの期間はARと他放射光施設の優先ビームタイム割り当てで対処するが、新光源のコミッショニング後にARは廃止として、スタッフと資源を新光源に集約する。

補足)3GeVリングのVUV-軟X領域のアウトプットと国際競争力を高めるため、ポテンシャルの高いUVSORグループが播磨地区の3GeV建設にまたKEKリング建設にISSP-SORグループが積極的に(アウトステーションなどで)参画することが望ましい。

 

シナリオB

・ロジックとしては「Spring-8の軟X線領域の性能を補強する」という点ではシナリオAと同じであるが、播磨地区の3GeVリング建設を、Spring-8IIへのアップグレードと位置付ける。したがってそのスペックはSpring-8IIと整合するように最適化されることになり、予算的・建設スケジュールも両者は一体で設計され資源も共有される。

・結果的にシナリオA同様に播磨地区にはアップグレードされたSpring-8IIと軟X線リング、SACLAが相補的に利用できる研究拠点が誕生する。この場合、Spring-8アップグレードの予算自体は増大するが、入射器を含まない分節約でき、また理研の設計チームが両方の仕様がシームレスになるように最適に設計できる。建設時期は軟X線リングを先に建設してSpring-8アップグレードのユーザーの受け皿となるようにする。

・KEKは回折限界リングを目指して播磨地区の軟X線リング建設期間を利用して詳細設計とR&Dを行うので、建設時期はほぼ2年遅れて建設する。初期投資がSpring-8アップグレードと重なり国の負担は増える。しかし両方とも入射器を省くことができるため、全体で見れば入射器システム2箇所分の経費が節約できる。

・シナリオA、Bでは西日本に相補的な3施設(Spring-8, SACLA, 3GeVリング)が集約された放射光科学研究拠点が誕生する一方、KEKは新光源の建設において回折限界3GeVリングの建設が可能となる。播磨地区はXFELと高輝度放射光の連携、KEKはJPARCと連携した量子ビーム研究に特徴を持つ先端的な研究拠点となる。

 

シナリオC

・KEKの推進する3GeV計画と理研が建設主体となるSLiT-Jの建設チームが共同チームを結成し3GeVリングを設計してKEKに建設する。ただし理研チームは設計に重点を置き、建設後半は播磨に戻りSpring-8IIの建設に従事する。

・東北放射光の利用を希望するユーザーはアウトステーションなどで積極的に参画するとともに、東北放射光の設計チームはKEKとの共同設計チームに取り込まれ積極的に建設に従事する。シナリオCの場合でも入射器は現用のものとなるが、リング建設は1箇所のため財源的には最も低コストとなる。一見すれば最も低コストで放射光学会の提言を実現できそうであるが、2つの3GeVリングスペックに開きがあるので(最新CDRでは開きはやや少なくなったが)、共同チームができても独自性の高い2つの計画のすり合わせに手間取る可能性は否定できない。

 

シナリオD

・3GeVリングを2箇所にSLiT-JとKEK-3GeVリングを独立して設置する。先行させるのはSLiT-Jで、2年の遅れでKEKリング建設となる。この場合、SLiT-Jは現在選考が進められている候補地を決定し、建設と同時にインフラ整備を地方自治体予算で進める必要がある。またこの場合、SLiT-Jには入射器が含まれるために、SLiT-J建設費は当初の予定(300億円)を下回ることはない。またKEKのリング建設と合わせれば全体のコストはシナリオA,Bより大きくなる。

・シナリオDではKEKと理研の加速器設計チームがそれぞれ独立して建設するため相互の関係(技術協力)は薄くなるが、逆に意見調整が必要なくなる。シナリオDにおける問題点は地理的に重複が高い関東・東北の2箇所に3GeVリングが整備される点と財政的に2リングの建設時期も重なるため、初期投資があえて時間差をつけても4-5年にわたり、(Spring-8アップグレードも含めれば6年間にわたって、)財源確保を継続しなければならない。

さらにシナリオDで心配されるのはSLiT-J建設費の一部が民間融資となっている点である。仮に返済が滞れば公費負担分が注に浮き、結局公費注入に終わる恐れもないわけではない。

シナリオA,Bで2リングを独立して建設し2箇所の研究拠点に集約するか、シナリオCでリングを一箇所に絞り込み、建設主体も共同チーム体制で公費負担を最も低コストにするのか、シナリオDで民間融資のリスクをとって、地域的に重複する2箇所のリング建設に踏み切るか、読者の皆さんはどのように考えるだろうか。

 

追記:持続性とは一体何なのか。 持続させるには新陳代謝と同じように壊れていく速度に打ち勝つ創造の速度が重要なのではないかと考えるようになった。モノからヒトへでは済まない。ヒトは世代を交代して持続性を保つならばモノもそうでなくてはならないだろう。ハコモノは困るがヒトのためのインフラならためらいは不要である。モノつくりを忘れないためには作り続けなくてはならないのである。

進みつつある高齢化、人口減少、労働人口の縮小で日本はどうなるのか不安な気持ちもある。またそれなら相応の小粒な国としてささやかに生きていけばよい、という評論家もいる。しかし世界の国々が、特に発展途上国は、日本に期待をいだいている。まだ力を出し切ったとは到底思えないのだから、インフラにお金を使って懸命な使い方をしたら、日本はもっと伸びるのではないか。

 

 

 

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