欧州の近代的キャンパスのつくりかた〜研究効率をあげるには

ドイツのシュツットガルトのマックスプランク研究所を訪れた人は誰でも驚くに違いない。レストランや研究者が滞在するゲストハウスがキャンパスや建物の中心近くに堂々と設置されているからである。日本ではこうした設備はキャンパス内の最も目だたない(つまり不便な)場所に、隠すように設置されるのが普通である。しかし実は日本の感覚でいえば奥ゆかしい、となる異常に分散したキャンパス内建物配置と建物の内部の設計が研究効率を下げているのである。

 

レストランが中心の研究所MPI

建物が中央でつながったマックスプランク研究所(下の写真)では、レストランは玄関につながる最も目立つ場所にある。レストランは中庭につながっていて憩いの場所にもなる。またコーヒーマシンも人気がある。ゲストハウスも本館のアネックスとして、これ以上ないほど近い場所に誇らしげに設置されている。

 

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Credit: MPI

本館はフロアがつながっていて、ヘリウムデユワーを押しながらでも、自由に研究者が行き来ができる。筆者がかつて学生時代を過ごした物性研でもヘリウムや液体窒素を汲みに行くのは苦ではなかった。建物が一体だったからである。しかし日本では部署毎に建物をつくることが何故か異常に多い。当初は特定の部署が占有していた建物も組織が再編成されると悲惨なことになる。

 

レストランで人材を集めるESRF

研究者の集まるレストランを研究上でも重要な拠点と考えた放射光施設がESRFである。昼となれば世界各国の研究者がレストランに足を運び、国際色豊かな社交場となるレストランは、いわゆる「研究所の食堂」とは一線を画す。(注1)そういえばESRFの所長が「欧州各国の優秀なポスドクを集める最も有効な手段は何だと思う?美味しいレストランが秘訣だ」と言っていた。

(注1)完成時の品質は定評があったが、その後経営組織が変わり質が落ちたともきく。厚生施設の経営が難しいのは世界共通の問題のようだ。

 

近代キャンパスの模範となるグローニンゲン大学の”Nijenborgh 4

オランダは近代建築で知られているが、キャンパスの建築にも独特のセンスの良さ、機能美が際立つ。グローニンゲン大学は2017年から、理学部と工学系の教育と研究のためのゼルニケボリキャンパスに、”Nijenborgh 4”と呼ぶ研究施設の建設を開始した(下図)。 新しい建物は、化学工学、ナノテクノロジー、材料研究、天文学などの重要な研究分野での国際協力が円滑にできるように設計されている。建物は下のイメージに示されるように、アルミニウムタイルで覆われた3つの接続されたV字型のウイングから構成される。

ひとつの建物であるが”Nijenborgh 4”の床面積は62,000 m2以上、全長260m、幅63m、キャンパス内で最大の建物となる。5階建てで1,000人の学士課程学生と450人の修士課程学生のための研究施設、840人の研究者が利用する。地下の自転車置き場には1,000台の自転車用のスペースを備える。ちなみにグローニンゲンに限らずオランダは自転車天国で通勤通学は主に自転車である。

 

日本で言えば研究施設と修士・博士課程の大学院生の施設を同一の巨大な建物に収容することは考えにくい。しかし高等教育と先端研究を区別することの方がよっぽどおかしいし、教育と研究が密接に噛み合うことで両者は一体として研究推進と現場教育が両輪となって進むべきなのだろう。

 

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Credit: University of Groningen

 

仰々しくキャンパスに点在する(本来は関連するはずの)建物に分散した研究者が同じ屋根の下で有機的に連携するための近代的な建築設計が欧州の先端的な方向性らしい。もちろん建物の電力の空調は太陽光でまかない、夜間の冷たい空気や自然の風も空調に使われた自然環境に近い空調設計と採光設計となる。

 

キャンパスのコンパクト化で研究・教育が効率化できる?

キャンパスに散らばる建物をまとめて機能的な研究棟を作れば、学生たちが教室間を移動することが容易になり、授業に遅刻することもなくなる。バスや自転車で離れた建物の間を移動する、研究者が隣の部署の研究者と打ち合わせする際に車で出かける、徹夜明けの研究者が長い道のりを徒歩で歩かなければゲストハウスにたどり着けない、そう言った不便さから解放されればどれだけ研究や教育の効率が上がるだろうか。

「コンパクトさ」がオリンピックに要求される今日、キャンパスのコンパクト化こそ取り組まなければならない課題なのではないか。なお”Nijenborgh 4”については3D動画で詳しい紹介されているので、そちらを参考にしてほしい。

 

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